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「稔、さっきの色んな人にやったらダメだからね」
「やらねぇよ」
「ていうか私にももうしないでね!? ほんと寿命縮むかと思った」
「いやぁ新年だし、変化を持たせた方が」

 新年関係あるかな!?
 何気に頑固な稔はこうと決めてしまったら私のいう事聞いてくれない。それが私で遊ぶ為だったら余計だ。
 
 大抵の事なら笑って済ませられるんだけど、これは性質が悪すぎる。
 私が稔をただの男友達としてしか思って無かったら、多分普通にはしゃいで終わってたんだろうね。けど、けど現実はそうじゃない!
 
「少し前から気になってたんだけど、稔のドSスイッチの数が徐々に増えて来てない? ちょっとした事でポチッとされる時あるよね? 私の身が持たないから一度捨ててもらってもいいかな!?」
「持ってないし」
「嘘つけ! どこ、どこに隠してるの? ここか、ここなのか!?」

 上着を引っ張って半脱ぎ状態にさせる。「寒いわ」とすぐ着直しされたけど。
 深刻な問題だから本気でスイッチ捨ててほしいんだけど。もしくはスイッチが簡単には言っちゃわないように、ピタゴラスイッチ見習ってややこしい装置かいくぐらないと発動されない仕組みにしてほしい。
 
「むしろスイッチは堂島が持ってるだろ。勝手に自分で押して自爆してるだけだって」
「ええぇっ、そうなの!?」

 両手を確認してみても何もない。いや当然だけど。
 え、なに、じゃあ私が自分で稔がドSになるスイッチを「ぽちっとな」して、一人でギャーってなってたの? 毎回?
 まじか……
 
 その場で崩れ落ちた私を追うように、稔も隣にしゃがんで肩を叩いてきた。慰めてくれてるのかなって思って顔を上げたら、滅茶苦茶いい笑顔だった。チクショウ、天性のドSじゃないか!
 
「いやもういいんだよ、稔がSだとかドロンジョ様とか!」
「お前が言い出したんだろ。つかぽちっとなはボヤッキーな」

 心の声読まれた!! あれってドロンジョ様の台詞じゃなかったっけ。稔なんでも知ってるなぁ。妙な知識一杯持ってるよね。ツッコミの幅が広いのなんのって。
 
「なぁ堂島」
「んー? なんじゃらほい」

 しゃがんだ姿勢のままの稔の前に、何となく座り直す。
 いきなり声のトーンが真面目な感じになったから、ちゃんと聞いた方がいいのかなと思ったので。
 
「さっき西峨先輩が言ってたんだけど、三月になんかあんのか?」
「三月?」

 唯先輩絡みで三月って言ったら、卒業くらいしか思い浮かばないけど。
 一体どういう話の流れで言った台詞なのか分かんないしなぁ。
 他にイベント的なものなんてあったっけ。
 
「卒業式くらいじゃないのかな。唯先輩って謎だらけだしなぁ、私生活とか全く想像つかないよね」
「あ、いや先輩がじゃなくて。堂島が」
「私? 三月だったら引っ越しの真っ只中かな」
「堂島の家、引っ越すのか」
「いやいや、ここ」

 ぺたぺたと床を叩く。
 この部屋と、教室の荷物を綺麗さっぱり片付けないといけない。
 早い内から徐々に始めておいた方がいいかもね、唯先輩みたいに。
 
「ここって」

 呆然とした様子で呟いた稔に、あれ? と首を傾げた。
 
「言ってなかったっけ? 私、二年からは地元の高校に転校するんだよ」
「……は? 今初めて聞いた」

 そうだったのか。なんか言ったような気でいました、すみません。
 時芽が知ってたっていうのもあって、余計稔が知らないわけないなって思い込んでた。
 うん、言われてみればそんな話してなかった。
 
「ごめん、言うの忘れてた」

 私も冬休みに初めて聞かされた話で、どう考えても女が三年間も男子校に通い続けるのは無理だろうって事で、親が決めていたのだと稔にも伝える。
 三年どころか、ほぼ一年間何事もなく男子校で、しかも寮で生活しちゃったのだって、普通に考えておかしいんだけどね。今更それを言ったって仕方ないし、出来ちゃったんだもの。

 しかし引き際は肝心って事でね。私もここいらが潮時かなって思う。姉に釘刺された事実もあるし。
 
「ちなみに……どこの高校受けんの」
「えっと、一応ウタやオッキーのいる所を受ける予定」

 編入の受け入れしてる学校って意外と少ないんだよね。
 候補は二つくらいしかなくて、家から通うのと学力を考えたら、あそこかなって感じで決まりました。
 ウタはともかく、オッキーが一緒っていうのは途轍もなく不安がある。
 
 自分の事だもん、私が不安になるのは当然なんだけど。
 あの? どうして稔が今とても打ちひしがれているのでしょうか。
 
 片手で顔を覆って、深い深いため息を零し、グシャグシャと髪の毛を掻いている。どうした?

「あの人絶対知ってて煽りやがったな……」

 ブツブツ何か言ってる。あの人って誰だろう。
 
「あーくそっ、余裕なんかあるかよ!」

 稔がご乱心! 語気を荒げていらっしゃる。私はそれをハラハラしながら見守るしか出来ない。下手に話し掛けるのは躊躇われた。
 
 暫く己自身の葛藤と戦っていたっぽい稔は、手を顔から退けてキリッとした表情で私を見据えた。うはぁイケメンがすると様になるなぁ。
 
「……か、かたミン……?」

 何か言われるのかなって思って待ってみたんだけど、稔はジッと見つめて来るだけで話し出そうとしない。
 え、な? ちょ、よせやい、照れるじゃねぇの。
 
「かた――」

 ゴチン!
 
「いったぁぁぁっ!!」

 ず、ず、頭突きされた!! めっちゃ痛い! 稔めっちゃ石頭!
 と思ってたら、稔も相当なダメージを受けたらしく、額を押さえて悶えている。うん、ごめんね私も石頭。
 いや、私謝る必要ないね、完全な被害者だよね。
 
「一体私に何の罪があって、頭突きされたの!?」
「転校するって黙ってた罪、この恨み晴らさでおくべきか」
「怖いっ! まだ何かされるのっ?」
「うん。だから覚悟しとけ」

 い、いやあああっ!! 怖い、本当に怖い。稔の目がマジなんだけど。真剣とかいてマジと読むよ。本気なんて度合いを通り越しちゃってる。
 あわあわする私に、稔はもう一度ニヤリと笑った。
 
 分かんないけどまたスイッチ押しちゃった!
 



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