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「と、時芽!?」
「はいはーい」

 基と話してても埒が明かないので時芽に説明を求める。
 心得ている時芽はすんなりと話してくれた。
 
「ほんと、基がカナくんが女だって気づいたのは春先だったよぉ。かたミンが転入してくるより前だったんじゃないかな。カナくんの見た目も触り心地も女の事しか思えないって言うから、そうだよって教えてあげた」
「あー、うん。あのさ、時芽はどういう立ち位置にいるわけ?」

 教えてあげたって、それは基が気づくより前から時芽は私が女だって看破してたっていう事だよね。
 むしろ、最初から知っていたみたいに聞こえるんだけど。
 そしてあっさり人の最大の秘密を教えないでほしいんだけどさ。
 
「僕? 僕はいうなればギャルゲーの主人公の親友で、やたら女の子の趣味や好きな物の情報に長けていて、女の子達の主人公に対する好感度を逐一チェックする為だけに存在する便利屋(サポートキャラ)みたいな立ち位置だよ」
「分り易い説明ありがとう!」

 でも絶対違うよね!
 サポートキャラの存在意義を私は常々疑問視していたのだよ。ていうか怖くね?
 あの子って俺の事どう思ってるのかなって聞いたら、まぁこのくらい好意を持ってるよってゲージ化して教えてくれたり、あの子は何々が好きらしいぜプレゼントしろよとか、お前なんで知ってんだよ!? って冷静になると怖くなるよね。
 
 落ち着け私!
 今はギャルゲー談義をしている場合じゃないわ。ついつい熱くなってしまった。
 けど、またの機会にゆっくり時芽と話し合いたい。
 
「いやいや本当だよ? じい様にカナくんをフォローするよう頼まれてたからね」
「じい様何者」
「カナちゃん知らないの? 時芽のじい様はこの学校の理事長だよ」
「うぅえぇい!?」

 さっきからどうなってんの。目まぐるしく新しい情報が私の脳に書き加えられてんだけど。更新スピードに処理がおっつかないよ。
 
 目を閉じて、とりあえず今まで詰め込まれた情報を整理してみる。
 えーと。時芽のお祖父さんがここの理事長で、私が女だってのはお祖父さんに教えられてフォローするよう言われていたと。
 
 あ、じゃあもしかして……入学当初、出席番号順に並んでいたはずの席順で、私の前に順番無視して時芽が座ってたのって、それでか。先生達が時芽に何も言わなかったのも。
 ついでに不自然に話しかけてきたのも、友達になったのも?

「に、人間不信になる……」
「カナたん大丈夫。僕だけは何があってもカナたんの味方だよぉ?」
「いっちゃん時芽が信用ならんわー!」

 関白父さんよろしく、机をひっくり返したい衝動を堪えるのに必死だ。
 
 ああそうだ、お母さん。
 冬休みの時にどうしてか時芽の名前に反応してたのは、理事長の血縁者だって気づいたからだったんだ……
 それならそうと私に教えてくれたっていいじゃない、本当にあの人は!

「酷いなぁ。僕はカナくんともズッ友だと思ってるのにぃ」
「そうだよー。時芽がじい様に頼まれたってだけで、仲良くするわけないじゃん」

 いつも通りヘラヘラと笑いながら基がとんでもない事を言う。
 仲良くするわけないって……
 いやいや仲良くしようよ、人類皆兄弟の精神で手と手を取り合って和気あいあいとやっていこうじゃない。
 
 だけど、ああ時芽だものねと納得されかかった私もいる。時芽って別に無愛想でも壁を作るタイプでも、ましてや人見知りなんかでもないけど、誰とでも仲良くする人でもないんだよね。
 
「じい様に女の子が入って来るから一年だけ一緒にいてフォローしろって言われた時には、なんて面倒臭い事やってくれてんのってカナ君を呪ったもんだよ」
「呪われてたの!?」

 糸目のまま、にんまり笑う時芽。

「一年だけってさ、高校生活の一年って長いよね? 三分の一だよ。それを爆弾抱えたような子とずっと一緒なんてやってらんないでしょ。だから話してみて気に入らないなと思ったら、じい様の言いつけ無視して放っておこうって決めてたんだぁ」
「それ笑顔で言う話題ちゃう!」

 そりゃないで工藤! あ、違う時芽。
 放っておかれるかもしれなかったのか私。
 多分、入学式の日に時芽から話しかけられたというか服引っ張られたあの瞬間に、判断されてたんだろう。
 
 いやぁ!! 怖い!
 こうして時芽とちゃんと友達としてやれてるから良かったものの、もしかしたらあの時の私の反応によっては見限られてたかもしれないなんて。
 ぞわっと鳥肌が立った。
 
 なんだ、何がお気に召したんだ、サザエさんか!?
 
「あ、勿論カナくんが予想外に面白い子だったから、じい様の言いつけ関係なく一緒にいるんだよ」
「……うん、それは疑ってないよ。ちゃんと時芽が友達だって思ってくれてるのは伝わるから」

 ド鬼畜な時芽だけど、なかなか優しい所もある。それは数か月間だけど一緒に過ごして来てちゃんと知ってる。
 林間学校で私が崖から落ちた時も、とても心配してくれていたし。
 
 真顔で返すと、時芽はきょとんとした後嬉しそうに笑った、と思いたい。私の願望です。
 だって時芽ってば糸目だし笑顔は標準装備だから、表情の変化がいまいち分りにくいんだよね。
 
「じゃあ基は? 私が女だって知って、離れようって思わなかった?」
「うん」

 わぁお即答! 基男前ぇー!
 ちょっぴり感動しちゃったわ。
 
「そりゃビックリしたけどなー、まぁカナちゃんだし。男でも女でも関係ないかなって」
「どういう事!?」
「だからぁ。性別がどうこうってより、カナちゃん自身が好きと思ったから良いかなって」

 あ、そういう。
 私の事なんてどうでもいいわ、みたいな意味かと思ったじゃない。基に限ってそんな薄情な事は言わないだろうけど。

「僕等はカナくんが女の子だって知ってたけど、そんなのどっちでも関係なく好きで、ズッ友だよ……! って事」
「時芽!」

 時芽の手を取り、涙目で見つめる。
 いつもいつも言ってるけど、本当に私は友達に恵まれているなぁ。
 
 私も時芽と基の事大好きだょ……ズッ友だからネ!
 
 



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