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 突然背中に重みが加わって、私はべしゃりと机に突っ伏した。
 
「カナちゃーん、かたミンどしたの?」

 予想通り、私に圧し掛かってきたのは基だった。
 お腹と腕に力を入れて、基ごと起き上がる。
 
「どしたんだろーねー。オレにはさっぱりわかんないなー」
「え!? カナちゃんがバミー事で分らない事なんてあったの!?」

 普通にあるよ。どうしてそこそんな驚いてるの基。
 ちなみに、基の「どしたの?」は、何処に行ったのって意味じゃないよ。
 
 ホームルームが終わって、さて帰ろうって思ったら、既に稔の姿が消えていた。先に帰っちゃったみたいだ。
 今日はずっとこんな感じ。完全に避けられてる。
 
 どうして今日はあんな態度なの? と基は聞いてきたのだけど、答えようがない。
 気まずいのはお互い様だけど、あんなあからさまに避けられる理由はなんだろうか。
 それに、昨日の晩の出来事を説明するのはちょっとね。
 
「201号コンビ解散?」

 私の前の席に後ろ向きに座った時芽が、相変わらずの糸目で笑顔で問いかけてくる。
 
「しないよ! 201号コンピは永久に不滅だもん。生まれ変わっても一緒になろうねって約束しました!」
「ダメじゃんそれ、別れた時の発言でしょー」

 あ、そうだった。某アイドルの破局記者会見の時のやつだった、間違えちゃったよ。
 ていうか時芽よく分かったなぁ。大抵テレビネタに反応してくれるのは稔なんだけど。
 と思って次の瞬間落ち込んだ。
 
 稔とまた、しょうもない話をしてダラダラ時間を潰すような仲に戻れるのかな。
 
「あれ、そんなかたミーと本気でやり合っちゃったの? 結構ヤバい感じ?」
「認めない。稔が他に好きな奴が出来たって言っても絶対別れてやらないんだから! くそ、なんなら相手の奴を殺してやる……!」
「カナくん、ヤンデレ似合わないねぇ」
「うん。自分でも言いながら無理あるなって思った」

 基にしみじみ言われると自覚があってもちょっと傷つくわ。
 でもおかしいな、ヤンデレ設定は結構好きなんだけどな。自分でやるのはまた別問題だね。私には出来そうも無かった。
 
「でもさ、早く仲直りした方がいいよ? もうあんま一緒にいられないんだからさぁ。三月なんてあっと言う間だよぉ」
「え?」
「なんで?」

 え? が私。
 なんで? が基。
 
 時芽の糸目を二人でジッと見つめる。その理由は私と基とじゃ違うんだけど。

 だって、え? 時芽、なんで三月までしか私がここにいないって知ってるの?
 そんな話、私は二人にはしていないのに。
 
「何々どういう事? 一緒にいられないって!」
「うぐ」

 ずい、と基が身を乗り出して時芽に迫る。
 基は今、私の背に圧し掛かっている状態なわけなので、当然私は机に圧迫される羽目になる。
 そしてそれを見て時芽は助ける出なく、笑っているという。このドSめ。
 
「何で知ってるの? 今までトッキーと思って甘く見ていたけど、まさかお前が時芽だったなんて」
「ふふ、そうだよ。この僕が時芽さ」
「だからー! どういう事だって訊いてんだろ」

 全く話がかみ合わないし進まない。
 そして自分で言い出しておいてなんだけど、よく私の意味の分らない発言に時芽は合わせたものだ。
 どういう意味なのかね、トッキーと思って甘く見るとか、時芽だったのかとか。
 混乱してたせいで、意味不明な発言をしてしまった。
 
 基に耳元でわーわー騒がれながら、時芽の説明を待つ。
 
「だって最初からそういう話だったでしょ。カナくん女の子だもん、卒業までここにいるってのはリスクが大きすぎるし、まぁ普通に考えて無理だよねぇ」
「!?」

 もう反射だった。考えて動いたわけじゃない。
 時芽の言葉に頭が真っ白になった私は、気付いたら彼の口を片手で押さえていた。うん、押さえてたって言うのは控えめな表現で、正確には叩く勢いで塞いでいた。
 
 時芽の口をふさいだまま、そっと後ろを振り返ると、すぐ傍にきょとんとした基の顔があった。
 
「どったの、カナちゃん?」
「いや、さっきの時芽の話……」
「ん?」

 あれ。反応が無い。もしかしてちゃんと聞いてなかったのかな。基だからな。勉強教えてくれって時芽に頼み込んだくせに、数式の説明を一切聞かない基だからね。今も聞いてなかったのかも。
 
「カナちゃんが女の子ってやつ? 俺知ってたよ。だからずっと『カナちゃん』って呼んでたっしょ」
「はああぁぁっ!? っ、いったぁっ!!」
「カナくんうるさいんだもん」

 可愛くない! 図体でっかい時芽が「もん」とか言っても可愛くないよ! えへ、みたいな顔作んないでくれるかな、うっかりキュンとするから。
 ていうか、何してくれてんですか、この人私の手噛んだよ!?
 
 基の衝撃発言に大声を出した次の瞬間、時芽の口にやっていた手をすっごい力で噛まれた。めっちゃ痛い!!
 くっきり歯形がいった手をフルフルと振る。

「も、やだこの幼稚舎からズッ友コンビ!」
「コンビ名長いなぁ」

 ペンネームとかでありそうだよね。ラジオに投稿するときに使ったりするの。
 いやいや、それどころじゃなかった。

「知ってたって、一体いつから」
「俺がカナちゃんって呼ぶようになった時から」
「て、それほとんど最初からやないかーい!」
「懐かしいネタ」

 そんなこたぁどうだっていいの! そんな事よりも、ずっとって。最初からって……じゃあ、じゃあ基は……
 
「最初っから女だって知っていながらベタベタ身体触りまくってきてたって事!?」
「えっ、女の子だと触っちゃいけなかったの?」
「やだ、嘘でしょ、何この価値観の違い!」

 これが小学校からずっと男ばかりの環境で育って来た弊害だっていうの?
 いやそんなはずない。男ばっかだったから女の子に耐性がないとかなら分かるけど、触っちゃダメだと知らなかったとか、おかしいよねどう考えても。
 基の価値観どうなってんだ!
 



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