▼page.4 時芽と基の二人と話して少し心が軽くなった。 よし、この調子で稔と話すぞ! って思ったけど、そもそも今は避けているのではなくて避けられている状態なのだと気付いた。 私が気合入れたって、稔に逃げられたんじゃあ話も出来ない。 うーん、私が稔から微妙に距離取ってたのなんか可愛らしいもんだよと言いたいくらい、華麗に避けられてるよね。 今日一日、一回も目が合わなかったよ。授業中だって稔の事ガン見してたし、きっと向こうもその事に気付いてただろうに、絶対こっち見てくれなかったよ。 あ、なんだろう。泣きたいっていうか腹立たしい、かも。 稔が悪いんじゃないって言ってんだろうが! と胸倉掴んで揺さぶりたい。そんなことしないけどね、仕返しされたら嫌だから。 部屋に帰るの怖いなぁ。居てもちょっと気まずいけど、いなかったらショックだし。 あーあ、こうさ、偶然バッタリ出くわしたりしないかしらねぇ。 「あ! 唯先輩だ!」 なんという偶然にバッタリ。同じ寮生活してても、出くわす事なんて滅多にないと言うのに。 三年はもう授業は自由登校なんだけど、唯先輩は出席日数があれなので出ているらしい。今日も制服着てるって事は、ちゃんと真面目に学校行ったんだね。 「出席日数足りそうで良かったですね……」 ほろり。思わず涙が零れそうだ。 目を細めて感慨深げに微笑むと、唯先輩が無言で額にげんこつを食らわせてきた。全然痛くないやつ。 「お前が一人なんて珍しいな。イケメンどうした」 ああ、ここでもセット扱い。ずどーんと肩を落とした私に、唯先輩は訝しげに片眉を上げた。 「まぁ、どうでもいいけど」 本当にどうでも良さそうに吐き捨てて、唯先輩はそのまま立ち去ろうとした。 そうはさせるかぁ! ここで会ったが百年目! はなんか違う気がするけど何でもいい! がし、と唯先輩のブレザーを引っ掴む。 「ひどい! 後輩が眠れない程悩んでるって言うのに、この鬼畜!」 「知らねぇし」 「ああもうこうなったら絶対離れない。子泣きジジイ選手権一位の私を舐めてもらっちゃ困りますよっ」 「お前の迷惑さは確かにぶっちぎりで一位だな」 ずるずる、ずるずる。私を背中に引っ付けたまんま唯先輩は歩いている。 すごいなぁ、なんでこれで進めるの。 なんやかんやで私が無理やり付いて行く形で、唯先輩の部屋にお邪魔する事になった、わーい。 部屋の片づけを手伝うのを条件に。 というか、どうして私はここまで意地になって唯先輩に引っ付いていたんだったか。はて。 「おじゃましまーす!」 何はともあれ! 初唯先輩のお部屋! どっきどきだね! エロ本とかあるのかな!? 「ないからな」 「え!?」 「ベッドの下とか、置いてるわけねぇだろ」 「えー……」 一目散に寝室入ってベッドの傍にしゃがみ込んだ私を見れば、何を探そうとしていたのか分らない方がおかしい。 あっさりと唯先輩に否定された。 そういや、稔も時芽も基もここには置いてないよね。ていうかそういうの持ってるのかな。見た事ないよなぁ。 「つーか、大抵のもんはもう持って帰ってる」 「へぇ、じゃあ私は一体何をすれば?」 「そこの下着でも段ボール詰めろ」 「自分でやって下さい!」 エロ本は良くて下着はダメなのか、と不可解そうに言われてもですね。 本は只の興味本位ですし。なんで私が先輩の下着をせっせと詰めなきゃいけないんですか。 まぁ、夏休みと冬休みは普通に稔の服も洗濯して畳んだりしてたけど。 リビングに残ったこまごまとしたものを、段ボール詰める作業を手伝う事にした。フローリングに正座してせっせと入れていく。やはりこれが私の基本姿勢なのか。 「で? イケメンと何モメてんだ?」 「聞いてくれます!?」 「鬱陶しいからな」 おっとしつこく付き纏わり過ぎたみたいだ。 手は止めないまま、唯先輩に事のあらましをざっと説明すると、彼は眉間に皺を寄せて私を睨むように凝視していた。 え、なんで私い殺されそうになってるんだろう。唯先輩の目力ハンパねぇからやめてほしい。めっちゃ怖い。石にされそう。 「お前等……付き合ってんじゃねぇのかよ」 「ませんよ」 そこか。そこから誤解されてたのか。 「面倒くせぇ奴等だな、さっさと付き合えばいいだろ」 「何て事言うんですか唯先輩! 無理やりは、犯罪です!」 「お前の付き合うの定義ってなんだ」 難しい事言いますねぇ。 いやほら、大抵のBLやTLって両想い即ベッドインってのが多いから、そういうイメージがね。 ははは、と笑って誤魔化す私に、唯先輩は溜め息を吐いた。 「高鳥けしかけてやろうか」 「え!? なんでウタが出て来るんですか!?」 わけわからん。 稔はすぐに依澄出したがるし、唯先輩はマジでウタ召喚しかねないし。なんなんだろうね。なんですぐ関係ない人を友情出演させたがるんだか。 前 | 次 戻 |