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「あっ!!」

 突然大きな声を出した私に稔がビクッとした。
 
「そういや家にいた時、急に大雨振って洗濯物取り入れるの手伝ってもらった事あったけど、あの時稔まさか私のブラ」
「知らねぇよ」

 最後まで言わせてももらえなかったよ。
 ちくしょう、ちょっと顔赤らめるくらいの可愛さ見せてくれてもいいじゃないか。
 
 しっかし、あの時慌ててたから全然覚えてないわ。結局私の下着は誰が取り込んだのだったかしら……。
 
「稔は私じゃなく、お姉ちゃんのじゃないと興奮したたたたっ! 痛い痛いっ!!」
「ごめんなさいは?」
「申し訳ございませんでした」

 よし、と渋い表情で頷いた稔は私の頭から手を離した。
 何かというと私の頭を鷲付かむのやめてもらえないかなぁ。頭皮へのダメージが深刻です。
 恨みがましく稔を睨んでいると、彼は笑いながらクシャクシャとかき混ぜた。
 
 ここまでの流れがワンセットだよね。クシャっとする時の稔の顔が何とも楽しそうで、痛いんだけどやめてとは言いにくい。
 というか、別に私も本気では嫌がって無いっていうね。ちょっと前に気付いたんだけど。
 
 頭を抱えたままソファに座った体勢から上体だけポテリと寝転がる。

 ソファの下で胡坐かいてテレビ観てた稔が振り返ったのが気配で分かったけど、今は顔上げられない。
 
 なんかね、もうねー一回自覚するともう嫌っていうほど意識させられるんだよ。恐ろしい病気だよ、恋ってやつは。
 
 なんて思ったら余計恥ずかしくなったあぁーっ!!
 
「そんな痛かったか? 悪い」

 いきなり謝ってきた稔にそのままの体勢で、一体何を勘違いしたんだろうと考える。
 痛い? なにが?
 
 と考えて、ああそう言えば頭ぐぐーってされたんだったなって思い出した。

「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないかもしれない……」
「えぇ!? これ以上馬鹿なったらごめん」
「それ謝って済む問題じゃないよ!」

 ようやっと手を離して顔を上げると、稔の端整な顔がドアップであった。
 うわぁい、ほんっとうにイケメンですね!
 その顔面どうにかして下さい、私のHPがガリガリ削られていってるんです。心臓がバクバクするたびに、ちょっとずつ削られていってるんです。
 
「ダメだ。稔と一緒にいたら私の身が持たない」
「失礼な。ちゃんと手加減してる」

 いいやしてないね。その顔面の美麗っぷりは情け容赦ないレベルだ。

「あーあ、かたミンがイケメンじゃなかったら良かったのに」
「どういう意味だおい」

 あんまり、というか全く意味は無いよ。ただイケメン過ぎてつらなって思っただけだから。
 
「腹減った。そろそろメシ食いに行こうぜ」
「ガンガン行こうぜ」
「おーでも魔法は考えて使え? ボス戦厳しくなるぞ」
「ケチケチ行こうぜ」

 とりとめのないダラダラとした会話を稔が一方的にぶった切って立ち上がった。
 私もソファから起き上がってそれに倣う。
 
 部屋から出て二人で廊下を歩く。
 こういう時、困る。
 
 何気なく二人で並んで歩くとき。部屋でぼんやりテレビを観ているとき。
 普通に、今まで通りに接しようとするんだけど、すればするほど意識してしまう。
 
 普通ってどうやるんだっけ。私はいっつも稔とどのくらいの距離感で横に立ってた? ソファに座ってた?
 近すぎる? 変に距離取り過ぎ?

 一度考え出したらぐるぐる、わけが分らなくなる。
 こんな調子でいたら近いうちに稔に変に思われてしまう。勘が鋭い時芽や、意外と周囲を見ている基にも怪しまれてしまうかもしれない。
 
『脳が乙女モードに入ったら、人間なんて単純だから一瞬で顔つきが女になるわよ。そしたらあの学校にいられなくなるからね』

 夏休みに姉に釘を刺された言葉を思い出した。
 私の今の顔つきはどうなんだろう。

 あともう少しなのに。今学期さえ辛抱すれば、女だとバレる心配をしなくて済む。
 だけど稔が好きだと自覚してしまったからには、何をどう辛抱すればいいのかもさっぱり分らない。
 
 来年からは高校に転校しなきゃいけない。性別を偽る生活は終わるけれど、それは稔とも離れる事を意味していて、いつでも隣に居られなくなるのが辛い。
 
「何?」
 
 気が付いたら一歩分前に居た稔の服の袖を掴んだ。
 振り返って不思議そうに見てくる稔に、慌てて手を離す。無意識のうちにやってたから自分でも驚いた。
 
「えっと、あ、依澄!」
「は?」
「依澄のトコ行ってからご飯食べるから。稔先に食堂行ってて」

 にへらー、とわざとらしく笑って数歩後ろに下がり、そのまま身体を反転させた。
 なにか稔が言いかけてたようだったけど、動転していた私はそこまで気が回らず駆けだした。
 
 



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