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「ごめんお待たせ」

 私と唯先輩が喋っている間、先に注文して食べててくれても良かったのに、三人はジッと待っていてくれたらしい。
 特に時芽が見えているのか見えていないのか分らない細い目で(いや見えてるんだろうけど)凝視してくる。
 
「カナくん」

 静かに、いつもより少し低めの声で名前を呼ばれてきょとんとする。
 が、次の瞬間
 
「もぉー! かなこんだけずるいぃ、先輩ちょーカッコいいー!」
「そうよかなこん、アタシ達にも紹介しなさいよぅ!」

 予想外に続いてたオネエ言葉に、思わず大笑い。
 
「やぁよ! 唯先輩はみのりんに紹介するって決めてるのー」

 悪ノリしつつ、ちょっとした下心も含ませてみたり。ちょいちょい接する機会があるというのに、いつまで経ってもこの二人全然進展しないんだもの。
 きゃーみのりん抜け駆けーと騒ぐ時芽と基の頭にげんこつを食らわす稔。
 
「俺にその手の話題を振るな!」

 割と本気で怒った稔に、私達は流石に黙った。そして顔を見合わせる。
 この話題はもう引っ張っちゃダメだな、という引き際を確認するために。
 
 面白かったけど、友人を不快にさせてまで続けるわけにはいかない。
 でもそっか、稔はこういうのダメな人なのか、とちょっと残念に思う自分がいる。
 
 私達がオネエ遊びをするだけなら、稔はそこまで拒絶反応は示してなかった。という事は、唯先輩とどうのっていう方が受け付けなかったのだろう。
 
 ……腐要素完全否定!?
 マジか! ここにきて私の夢を打ち砕く事実発覚!?
 え、稔って冗談でもそういうの一切ダメな人だったの……?
 
 そ、それはそれは、今更ながら色々と申し訳ないと言うか。
 私が腐女子だってバレたらどうしよう。
 
 いやそんなヘマするつもりは毛頭ないけどさ。それで友達失うとか絶対嫌だもの。
 でもそっか。あと三か月とちょっと。今まで以上に気を引き締めないとな。
 

 なぁんて決意も新たに夕食を終えた矢先の事でした。
 私達は部屋に戻って適当にテレビを観て寛ぎ、お風呂を沸かし……いつも通りのんびりとした夜を過ごしていた。

「稔、お風呂お先いただきましたー」

 濡れた髪をタオルでごしごし拭きながらリビングに行くと、稔は私がお風呂入る前と同じ位置でテレビを観ていた。
 後ろに立つ私を仰ぎ見た稔の視線が何故か突き刺さる。なんだ? と首を傾げると苦笑された。

「なんかさぁ」
「うん」
「紗衣さんからメール入ってきたんだけど」
「え、なんで稔に?」

 何かあった時用に、とメアドを交換していたのは知っていたけど。
 私が何時どんなタイミングで何に巻き込まれるか分らないから、と大変私に失礼な理由で。
 そんなだから、緊急事態でもなければ稔に連絡がいったりはしないはずだ。別に私はここでお風呂入ってホクホクしてるだけなんだけど、どうしたんだろう。
 
 内容を読んだはずの稔が眉間に皺を寄せて難しい顔をしている。
 無言でスマホを渡された。読んでいいらしい。
 ざっと文章に目を通した。
 
 実に長い文章だった。そしてとてもテンションが高かった。異様に。
 読んでいくにつれ、お風呂で温まったはずの体温が徐々に低下していく。
 スマホを握る手がぷるぷると震えた。
 
 内容は、姉がずっと大好きで追いかけてた本の新刊について。
 まぁお察しの通りBLですよね。
 雑誌には掲載されず、直で単行本になるという異例の連載物で、一巻ずつの間が一年二年は軽く空いてしまうというものだ。
 その新刊が発売されたとあって、早速購入した姉がテンションぶち上がってその感想をつらつらと書き連ねているわけです。
 稔宛てに。
 
 私の憶測ですが、多分姉、酔ってる。
 これきっとお酒のテンションだ。たまに飲んで帰ってきて出来上がってる時こんな感じだったもの。
 そしてアドレス帳に「方波見 稔」「香苗」で登録されてるから一個間違えたんだね。
 
 読み終えた私は、薄笑いを浮かべながらさくっと無言でメールを削除した。
 だけどバッチリ読了している稔の記憶は消去出来ない。
 どうしよう、どうしてくれんの、何も言い逃れできないよ!
 
 お、お姉ちゃんの馬鹿ぁーーーっ!!





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