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「わざとするのやめて下さい」
「あーまぁ、気が向いたら」
「唯先輩!」

 完全におもちゃにする気満々じゃないですか!
 ひどい男だよ、女の子を弄んでそんなに楽しいか!? うん、楽しそうだね。さっきからすっげぇニヤニヤしてるものね。
 
 イジワルがご褒美になるのは二次元と、一部の方達だけです!
 
 唯先輩は一度私から視線をずらして何かを見てから、髪をぐちゃぐちゃにかき混ぜてきた。
 
「そんじゃな」
「はい。また学校で」
「ん」

 ヘルメットを被る直前に、もう一度チラリと私の後ろくらいを一瞥して先輩はバイクを走らせた。
 
 さっきから何を見てたんだろう? と振り返ってみると少し距離を置いた所に稔が立っていた。
 うぉ!? 何してんのあの人。通行の邪魔にならないようにだろうけど、道の端っこに寄って、ジッと棒立ちになっている。
 
「稔なんでそんなトコいんの?」
「……いや、あの人がいてビビった」
「ああ、唯先輩」

 確かにビビるのも分かるよ。分かるけれども! いつまでもそんな遠巻きに見つめてたって二人の仲は進展しないでしょうが!
 唯先輩も先輩だよ。稔の存在に気付いてたなら声掛けるなり無理やりこっち来させるなりしなさいよ。
 まったくもう、二人に残された時間はあと少しなんだからね。唯先輩が卒業して、私もあの学校から転校しちゃったら稔との接点じゃくなっちゃうじゃん。それまでにどうにかしてほしいものだわ。
 
「堂島、あの人と出掛けてたのか?」
「唯先輩とっていうか、みんなと。オッキーも一緒だったよ」
「沖汐……」

 おや? 稔が嫌そうに眉間に皺を寄せた。予想外な反応に首を捻る。
 あ、分かった。親友のオッキーが稔ではなく私と正月早々遊んでたのが気に食わないんだな。なんで俺を誘わないんだよっていう。
 
 そっかぁ。やっぱ稔はオッキールートなのか。残念だ。実に残念だわ。一番避けたかったルートなのに。オッキーに行くくらいなら基とか時芽のが良かったよ私は。
 
「なんだかんだ言って堂島と沖汐って仲良いのか?」
「んなわけないじゃん! だってあいつウタ取ろうとするんだよ!? 腹立つ!」
「高鳥……」

 本当どうしたの稔。さっきから人の名前呟いては難しそうな顔をして。
 なんだね、ウタにも興味深々なのかね? なんだったら私が仲を取り持ってやろうか? オッキーに必要以上にウタと仲良くされたらなんか腹立つし、いいよいいよー。
 
 ていうか、稔もウタもオッキーに取られそうというこの危機的状況。あいつマジで許さん。
 
 その時、ビュウッと強い風が吹いた。
 
「さむ! 稔早く家の中入ろ、風邪引く」
「そうだな」

 玄関で靴を脱いでいると、居間からひょこっと姉が顔を出した。
 
「おかえり。朝帰り? 姫はじめ?」
「絶対違うって分かってて言わないでよ。ただいま」

 稔は意味が分らなかったらしく、ひめ? と不思議そうな顔をしている。うん、一生気付かなくていいと思うよ。
 
「稔は家族のとこだったし、私は唯先輩達と」
「え!? 他の男んとこ外泊して彼氏に迎えに来させたの!? あんたってビッ」
「違う!!」

 何が違うって、最初から最後まで丸々違う。
 妹に向かってビッチって言おうとしたよ、この人。酷過ぎるわ。
 
 私に続いて靴を脱いで家に上がった稔を見て、ああそうだと思い出した。

「おかえり稔」

 言うの忘れてた。
 稔は目を見開いた後、少しはにかみながら「ただいま」と返してくれた。
 くぁぁ! かっこかわいいな!
 
「おかえり不良娘」
「あはは、ごめんなさい」

 居間のコタツに、昨日と同じ位置に座っていた母がジロリと睨みつけてきた。
 昨夜は本当は初詣に行って家に帰ってくる予定だったんだけど、そのままお泊りコースになってしまったからね。
 
 世間は狭いもので、あの店のマスターとウチの父が昔からの知り合いだから、マスターから泊まる旨の連絡をしてもらっていたのさ。
 一体どういう説明がされて、男ばっかの所で娘が一泊するのを親が了承したんだか謎です。
 
 まぁ実際何もなかったしね。自分でもびっくりするくらい熟睡してたからね。
 
「それで二人共ちゃんと学校の課題終わってるですか?」
「…………」

 父にのほほんとした声音ながらも、シビアな問題を直球で叩きつけられて、私と稔は顔を見合わせた。冬休みに入ってから大抵は一緒に行動していたので、お互いの課題の進行具合は分かっている。
 
「ま、まぁまだ三学期まで日はあるしね」
「これからが本番、みたいな、な」

 二人して乾いた笑みを零す。とても虚しい。三が日の間までくらいは正月気分に浸らせてくれたっていいじゃない!
 
 冬休みの残りは、稔と二人で頭つき合せて課題をせっせとこなす作業に費やされました。
 





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