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 かくして私が家に帰ってきたのは翌日の昼過ぎでした。
 結局ウノ大会に参加させられて、何度やってもどんなカードの切り方しても絶対に唯先輩が圧勝するという、カジノででも働けばいいんじゃないですか? って言いたくなる特殊能力を見せつけられ。
 
 途中で面白くなくなったらしい東さんが、どこから持って来たのか桃鉄をひっぱり出してきて、徹夜で日本全国津々浦々を旅する羽目になった。

 といっても、私に貧乏神がついてどうにもこうにも立ち行かなくなって詰んだので投げ出し、不貞寝をしたから最終的に誰が巨万の富を得たのかは知らない。
 多分唯先輩だと思うけど。あの人の最強の運は何なんだろうね。
 
 朝起きると私はソファで寝かされててウタのコートが身体に掛けられていた。もう、もう、ウチの子すごくないですか。パトラッシュやハチ公と並び称されてもいいと思うんだ。滂沱ものです。
 
「ありがとうございました」

 そして石油王だか不動産王だか知らないけど、大富豪になっただろう唯先輩に家まで送ってもらった。
 相変わらずこの人の運転は怖かった。
 
 ぺこりと頭を下げた私を先輩は特徴的な赤錆色の目でじっと見てきた。
 
「お前、いつまであの学校にいるつもりだ?」

 唐突な質問に目を瞬かせる。数日前に家でもその話題になったばかりだ。それを唯先輩からされるなんて、この人どこかで聞いてたんじゃないだろうか。

「なんで性別隠してまであんなトコ入ったんだか知らんが、どうせ高鳥と俺の事があったからだろ? 見た限りもう大丈夫そうだけど」
「唯先輩……」

 信じられない者を見る目で私は唯先輩を凝視した。
 
「あなたエスパーだったんですか!?」

 ベチッ
 
「いにゃっ」

 デコピンされた! 最大限の力で。絶対今私の額に指の型いってるよ!
 ひりひりじんじんするおでこを押さえて唸る。睨まれたので唸り声も引っ込める。

 いやだってさぁ、この人の勘の鋭さというか推理力というか、的確過ぎて怖いよ。当事者である私でさえつい先日初めて知った事実だっていうのに。
 それまで、ふへへ男子校だぜBLはいねぇがーって、ただそれだけが目的で入れられたんだと思ってたもの。
 
「一応、三月までの予定です」
「じゃあ俺の卒業と同時か」
「え、唯先輩卒業出来るんですか?」
「おい」
 
 短いツッコミが入った。
 いやだって唯先輩がちゃんと授業受けてるところなんて想像つかないし。C棟でよくサボってるらしいし。普通に心配するじゃない!
 
「ていうか先輩って受験生じゃないですか。こんなトコで遊び呆けてていいんですか?」
「呆けてんのはテメェだ。俺はもう終わってんだよ」
「え、人生が」
「言うようになったじゃねぇか」

 ひぃ! 調子に乗り過ぎた。言い終える前に、ガッと額を片手で掴まれた。視界いっぱいに先輩の大きな手の平が。
 きっと手相占いしてもらったら良い事しか書かれてない手の平が!
 
「せ、先輩もう大学合格したんですか!?」
「そう言う事だ」
「おめでとうございます!」

 大慌てで話を軌道修正させると、漸く手が離れていった。
 前みたいに必要以上にビクビクはしなくなったけど、やっぱり先輩との会話はスリリングだね!

「そういえば、唯先輩にまだちゃんとお礼言ってなかったですね。ありがとうございました」

 去年の事から、ウタと仲直りするところまで、何かと唯先輩にはお世話になっている。
 ぺこりと頭を下げて、もう一度顔を上げると目の前に唯先輩の指が。
 
「うわっとー!」

 額を庇いながら一歩後ろに下がる。またデコピンされるところだった!
 にやにやしてる唯先輩を恨みがましく見たけど、まぁ先輩に効果があるわけないよね。

「高鳥も俺も言ってみりゃ自業自得だ、お前がそこまで気にする事じゃない」
「ゆい……せんぱ……」

 そう言ってくれるのは嬉しいんですが、なんでわざわざ耳元で囁くように言うんですか!
 まずった、先輩の声が弱点だって知られたのはまずかった。
 これからこうやって遊ばれるんだ……! 泣きそうです。

 こんな美声を、人を脅したり私で遊んだりする事にしか使わないなんてとんだ宝の持ち腐れだよ。
 いっそ愛を囁けばいいと思う。ビビリ平凡な男の子にゲロ甘な言葉の数々を耳元で囁けばいいと思う心から。

 ていうか昔西さんに助けてもらった私のポジションを男の子に挿げ替えたらとんでもなく萌えるっていう事に今気付いた。

 美形総長に溺愛されている平凡くんの存在が周囲に知れ渡り、チャンスと見た敵チームに平凡くんが攫われ、焦りを感じながらも速やかに救出に向かう総長。
 やっと助け出せたときの二人のやり取りがね、もう考えただけで……。
 ああヤバい、総長×ビビリ平凡美味しすぐる。涎が止まんない。

 この私の今の滴るばかりの心の悶えを綴ったら1冊の本になりそうなくらいだ。
 タイトルは『一リットルの涎』
 売れる気がしねぇ。

 私に文才なんてないしね。仕方ないので現実に戻る。




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