「来栖くん……?」
「ぜんっぜん気付かないんだもんなぁ。おれすぐ分かったってのに、この薄情もんが」

 ジロリと睨まれて反射的に目を逸らせてしまった。
 
 あばばばば。
 分かった。分かったよ! なんで彼にあんなビビってたのか!
 
 小学校が一緒だった来栖くん。中学に入ると同時に引っ越ししてそれっきりだったけど。
 
 来栖くんってガキ大将だったんですよ、ジャイアンだったんですよ。
 なんか私よくいじられてたんです、怖かったんです。
 
 そんで依澄によく泣きついたもんだ。
 
 今日だって依澄を呼んだのは間違いじゃなかった!! グッジョブ私!
 
「だ、だって、来栖くん全然雰囲気違ってるし」

 気の強いやんちゃ坊主だったのに、なんか飄々とした人になっちゃって。
 どっちがいいかと言われたらものすごく悩むジョブチェンジをしてくれましたね。
 
 ちくしょうめ、こういう時少女マンガなら昔いじめっ子だった子が数年後に再会したら、爽やかな好青年に大変身してて、不覚にもときめいて恋に落ちるってもんだろうに!
 
 過去の彼と今の彼、心に葛藤を抱えながら惹かれる心に正直にうんたらかんたら。
 
 ………ないわ。来栖くんないわその展開。
 恋には落ちないわ、失意のどん底に突き落とされる可能性はあるけど。
 
 もうね、トラウマレベルだったのよ来栖くんのジャイアニズム。
 私がのび太くんで依澄がドラえもんね。
 依澄への信頼感の芽生えも然る事ながら、唯先輩にあそこまで懐いた理由も彼にある。
 
 女の子の方が男の子より精神的に大人びてくるのが早いから、小学校高学年くらいになると、同年代の子がどうしても子供っぽくて嫌! とか思っちゃうもんだよね。
 
 私は来栖くんに苛められて余計その思いに拍車がかかり、そんな時に当時中学生だった唯先輩に出会って。
 
 強いしカッコいいし大人っぽいし、お兄ちゃんが一番いい!
 
 とかね、身の程も弁えず考えてたよ。小学生の時の私すごい。
 すごい恥ずかしい。
 
 いやそんな暴露は置いといて。
 
「にしたって文化祭ではビックリしたわぁ、地元で有名な高鳥が暴れてるし稔と顔見知りみたいだし、香苗がナチュラルに生徒に成りすましてるし。たけし似てないし?」

 ぎゃああああ!
 急に確信ついてくんじゃねぇえええ(たけしのことじゃないよ!)
 
 折角ずっと当たり障りのない話ばっかしてきたのに。
 私が必死で文化祭の話にならないように苦心してるの知ってて、敢えて乗って油断したところで突きつけてきたんだ、なんて男!
 
 頭抱えてテーブルに顔伏せようとしたらビーフシチューに正面衝突しそうになった。
 
「あっぶねぇー……」

 ギリギリのところで稔が私のおでこを押さえてくれたから助かりましたが。
 
 なんも見えてなった。何も考えてなかった。
 いや考えられないくらいもう来栖くんの事で頭がいっぱいだったとか言ったら誤解を招きそうだな。違うよ、違うからね。
 



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