▼8 「やっぱ力太郎だってー」 「モチモチの木」 「くじらぐもとか」 「王道過ぎだよ、もっといっぱいあったって。ほら、なんだっけ、ネズミが夜中工場に入り込んでチーズ食べちゃうの」 「アナトール?」 「スーホの白い馬だろ」 「ああ……! あれは名作。泣いたよね!」 「動物園でライオンとヒョウの友情が芽生えるのなかった?」 「なにそれ」 「いやあったあった、覚えてるわそれ」 「ヤンおばさんってなんだっけ?」 「故郷だね」 てかそれ中学だから。 どんな状況? こんな状況! お昼ご飯を食べながらなんか小学校のときの国語の教科書に載ってた話で何が印象に残ってたかっていう話題になって。 共通の話を探してるうちにこんな事になったんだけど、まぁなんか打ち解けた感じになって良かった良かった。 一時はどうなるかと思った。 沖汐くんに対して自分でも不思議なくらい苦手意識を持ってる私は、少しでも彼の気を逸らそうと考えを巡らせて、そうだ人数が多ければ彼の意識を分散できるんじゃないかと思い立って、急遽依澄を呼び出しまして。 そして実はウタもいるっていう。 聞けば沖汐くんとウタは同じ高校なんだとか。 あの文化祭以来、何かしら絡んでくる沖汐くんと、微妙な友達関係を築いたようだ。 そんなわけでクリスマスに特に用事のない可哀そうな現役高校生達の集いになりました。 いやぁしかしさすがイブ。どこもかしこも人が多い。 ご飯を食べるにしても、どこの店もいっぱいで探すのに苦労したよ。 男女ペアの数の多いのなんのって。 あーあ、リア充爆発しないかなぁ。どーん! ってならないかなぁ。 「なぁ平良、そこのタバスコ取って」 「だめー」 もう、ちょう笑顔。にっこり。 かーわーいーいーなー! 依澄ったらお茶目さん。 ウタと稔の白けた目もなんのその。依澄は絶好調にマイワールド展開中。 ちなみに今のは沖汐くんに言いました。 でも、あれ? 「そういや自己紹介してないのに、なんで沖汐くん依澄の名前知ってんの?」 「そりゃあ忘れらんねぇっしょ、このキャラ」 「僕もちゃんと覚えてたよ。カナ忘れちゃってたの?」 「え?」 忘れる? 覚えてた? 何がなんだかわけわかめ。 ぱちぱちと無意味に瞬きを高速で繰り返す私に沖汐くん爆笑。 ウタに頭殴られる。 いいぞ、もっとやれ! 「おいやっぱり知り合いだったみたいだぞ」 稔に耳打ちされて、おおそういう意味か! と漸くその地点まで認識が追いついた。 私と依澄の両方を昔から知っていたという事は、小学生の時の知り合いか。 沖汐? 覚えがないけどなぁ。 「でも、沖汐じゃなかったよね。来栖くんって言ってたっけ?」 「く、来栖!?」 危うくスプーン落とすとこだった。 目をひん剥いて沖汐くんを凝視する。 「あんま見つめないで、照れちゃうー」とかほざいてる彼をまたウタが殴る。 テーブルの下で稔が足を蹴る。 結構酷い扱いだ。 いやいや。そういうおどけたというかおちょくるような態度ばっか取ってるから、分かんなかったけど。 髪型も髪の色も違うし。 言われてみれば面影もあるけど、何年も経ってるからやっぱ小学生の時とは違う。 正直どんな顔してたかとかもうおぼろ気にしか思い出せないし。 前 | 次 戻 |