▼9 後で来てくれた先生に負ぶわれながらキャンプ場まで戻ってきた私は、保険医(女性)に傷の手当をしてもらい、何食わぬ顔をして飯盒炊爨で作ったカレーをみんなと一緒に食べた。 時芽はともかく基の心配の仕方もすごかった。 稔に負けないくらいだった。 この子も何気に心根の優しい良い子なんだよ。 他のクラスの子からは興味深々で根掘り葉掘り状況を聞かれたね。 多少脚色して教えてあげた。とくにファイト一発のところとか。 そして高盛くん。 自分で作ったカレーを褒め称えながら食べてたらひょっこり現れたのだ。 彼のぶすっとした顔を見て驚いた。 「あれ、高盛くんすっごいイケメンになったねぇ!」 「うるせぇ……」 反論にもいつもの覇気がない。 彼の右頬に大きな湿布が貼られてるんだけど、その甲斐も虚しく腫れてしまっている。 はっきり、殴られたんだと分かった。 「その、悪かった……わざとやったわけじゃないけど、力加減とか」 「謝って済む問題かよ! 犬のお巡りさん出動もんだぜこれはぁ!」 息巻く基に、時芽はくすくすと笑っている。 あーあ、高盛くん殴った犯人分かっちゃった。 「高盛くんがわざと突き落とすような子じゃないってくらい知ってるよ。そう簡単に許しはしないけど、グーパンチしてくれた基に免じて恨むのはやめといたげるね」 ひひひ、笑って高盛くんのほっぺたを湿布の上からつつく。 本気で痛がって逃げた。 これは口の中切れてるな。カレー食べれたのかな。 結構辛かったから、相当な苦行だったんじゃないかな。 それだけでも罰になってる気がするわ。 「お前、また」 と言いかけて、結局高盛くんは「だったらもういい」という捨て台詞を吐いて向こうに行ってしまった。 「あれれ、基が虐めるから高盛くん拗ねちゃったじゃん」 「完全にカナくんがあの子の気を削いだせいだと思うよー」 尚も笑い続ける時芽。 彼のツボがいまいちよく分からない。 鬼畜の事は鬼畜にしか理解出来ないのか。だったら唯先輩なら時芽のよき理解者にってこれ以上は怖いから考えないでおこう。 「のおおお! 高盛くんの相手してる間にカレー冷めた!」 「冷めてても食えるっしょ」 「食えるけどぉ、やっぱ熱々がいいですのよ」 「人肌でなら温められるけど?」 やめい! そっとジャージのファスナー下ろすのやめい! テーブルの下で基の足を蹴って止める。 体温カレーなんぞ一番食べる気失せるわ! 我慢して冷たいまま食べる事にした。 「にしてもカナくんって料理の手際良かったねぇ」 「ジャガイモの皮剥きとかお手の物だったねぇ」 カレーが作れたから料理上手ってのはどうかと思うけど。 でもお坊ちゃま育ちで包丁なんて握った事ないだろう彼らからしたら、手慣れてる私に驚くのも無理はない。 私の家は一般家庭だからお手伝いさんがいて家事全般やってくれるわけではないのよ! 全部自分達の手でこなさなきゃいけないのよ! しかもウチは両親が共働きで多忙な為ほとんど家に居ないもんだから余計にね。 「堂島は何作らせても旨いよ」 「そういやかたミンって夏休みカナちゃんちにずっといたんだっけぇ。えー家でずっと手料理ごちそうになってたの?」 「てか冬休みも? いいなぁ僕達も泊まりに行こうか基!」 「だが断る!」 ばばーん! そんな大勢が泊まれるほど堂島家は広くないですよ! というか泊めたら女だってバレそう。 日中遊びに来るくらいならいいけど。 そう言うと嬉々としてその提案を二人は受け入れ、帰省する日は時芽の送迎車で我が家へみんなを連行、晩御飯を持て成す事に決定した。 てか送迎車って! 前 | 次 戻 |