▼これが日常 六月。今日も今日とて晴天、天晴れです。まだ梅雨には少し早い。 方波見くんが転入してから二週間が経ち、彼も私達周囲もお互いがお互いの存在に慣れた。 例えば私は方波見くんだなんて他所他所しい呼び方ない。 かたみーとか、ばみーとか稔とかその場に応じて臨機応変。 稔も私の事を「なぁ」とか「おい」とか、倦怠期を迎えた夫婦かコノヤロウ「名前くらい呼びなさいよ!」って感じです。 クラスにも無事打ち解けたようで嬉しい限りだ。 まぁ私が何か努力したわけでもなければ初めから何の心配もしてなかったけどね。 彼は無愛想でも人見知りでもなく、適度に明るく適度に適当で、良い具合に話し易い。 稔の存在はあっという間に学校に溶け込んだ。 それが意味するところは。 皆まで言わずとも分かりますか。やっぱりそうですか。 見目麗しく格好良くも綺麗でもある稔は、この学校の約2割の男同士の恋愛又は行為に積極的である生徒達にまたたくまに目を付けられたというわけです! つい先日、登校してきて靴箱を開けてみたらあらビックリ。なんと一通の手紙が。 封筒は無地の白で、丁寧に『方波見 稔様』と書かれたシンプルなものだった。 可愛らしさの欠片もない事務的な雰囲気だが、靴箱に手紙、これが意味するものなんて一つだよね!! 訝しげに眺めてから書かれた内容を確認し、すぐさま捨てようとした稔から手紙を引っ手繰った。 そこには「初めてお姿を拝見した時から――」で始まる、差出人の思いのたけが切々と語られていた。 ラブレターだ。どこからどの角度から見ても。 一昔どころか年号を幾つか遡るほど前から使い古された恋文の常套句。 最初から最後まで時代掛かった言い回しの文章を読み終えた、友人達は腹を抱えて笑い転げた。 酷い話だ、人が一生懸命書いたものを笑いのネタにするのだから。 私はそいつ等の頭を一発ずつ叩く。 「これ書いた子が見てたらどうすんだ、泣くぞ?」 私だったら泣く。トラウマになる。 「えーだって、これはさぁー。ていうかこれって冗談じゃないの?」 仲間うちの一人が言う。 「冗談で書かないだろ、男に!」 「本気の方が性質悪ぃよ……」 鬱陶しそうに手紙をひらひらと宙に浮かす稔。 「そんな事言ってー、どうすんの? びっくりするくらい可愛い子だったら」 見た瞬間に恋に落ちましたーとか! 思わず告白にオッケーしちゃいましたーとか! 奥ゆかしい文章だけど、転校してきて一週間やそこらの人に手紙ぽーんと渡しちゃう人だから積極的なんじゃないかなぁ。 実際に会ってみたらガンガン押してくる人だったりして。 誘い受けの可能性大? うーん……実のところ誘い受けってピンと来ないんだけど、稔は完全ノン気だからなぁ。そのくらいしてもらわないとBLの世界に堕ちてきてくれなさそうだ。 是非とも頑張っていただいたい。もう押し倒しちゃってください。 「どうもしねぇよ、顔がどうだろうと男だろ」 ひんやりとした現実を突きつけてくる稔が恨めしい。 なんだよ、そんなBLに最適化されたキャラ持ってるくせに、なに拒否してんだよ。 恋に恋焦がれればいいじゃない! 男と。 本人には言えやしないけど。 「でも実際どうしようもないよな、差出人不明だし」 「爆発しそうなこの想いをどうにかしようと、とりあえず手紙に認めてみましたー的な」 どうにかする必要なんてナッシング。早く爆発させちゃいなよ、するなら稔をどうにかしちゃいなよ! 荒れる私の心なんてお構い為しに、まあ害は無さそうだし放っておけって事でラブレターの一件は落着してしまった。 だがしかし、確信を持てた。 やはり稔は捜し求めていた逸材だ。予想とは大幅にぶれたけど、軌道修正なんてこれからいくらでも出来る。 これからもっともっと色んな人にアピールされまくるだろう。 これぞ正しく薔薇色の高校生ライフだ! 前 | 次 戻 |