▼6 適度にさっぱり、適度に物が置かれてて、ちょっと雑な感じが男の子の部屋だなぁと思わせる。 「もう一人は?」 「友達んとこ行ってるよ」 「マジ? よっしゃ! 聞いて聞いて依澄!」 同室者がいないと分かると私は抑えていたテンションを爆発させた。 抱きつく勢いで依澄の肩を揺さぶる。 そんな私に怒るでもなく、依澄は自然な動作でソファに座るように促してくれた。本当出来た子だこと。 平良 依澄は私の王子像に限りなく近い子です。ちょっとぽややーんとし過ぎている感が否めないけれど、これで案外頼りがいがある。包容力があると言うか。 私がここに進学すると決まったとき、真っ先に彼に報告した。 すると依澄は、目をまん丸にして 「カナ女の子なのに? すごいねー」 何をしてすごいのか全く伝わって来なかったけれど、私の非常識な行動を非難もせず「じゃあ高校はまた一緒だね」と喜んでくれたのだ。 高校生になって周囲が男ばっかで右も左も分からない状態の私が、それでも安穏と生活してこれたのは依澄のお陰だ。 クラスは違うから、学校ではそこまで一緒にはいられない。そこは何とかかんとかクラスに友達を作って凌いでいる。 でも一人部屋だから気楽ではあるけど、その分戸惑う事もいっぱいあって、その度に私は依澄に泣きついた。 中でも一番心に強く残っているのは、やっぱり部屋に侵入してきた奴を撃退してもらった事だろうか。 体は小さく黒光りして、すばしっこい、カサカサ音を鳴らしながら移動するアレです。 『ううぅぎゃああぁぁぁぁおおおああぁっ!!』 と叫びながら階の違う依澄の部屋までダッシュして、ドアをドンドンドンドン。 その時に「うるせぇよっ! 何時だと思ってんだボケがぁっ!!」と人殺しみたいな形相で私の胸倉を掴んで来たのが隣人との出会いだった。 頭突きをかましたのは言うまでもない。身長差から私の頭(若干、石)が彼の鼻に直撃したから相当痛かっただろう。いい気味だったケケケ。 あ、そうそう、それで依澄がほやほやした表情のまま、目にも留まらぬ速さで紀元前より生息している悪魔の使いであるアレをティッシュの箱で叩き潰してくれた。 残りのティッシュを取り出して、箱は捨てました。 私が混乱した際には依澄に泣きつく、これ方程式になりつつある。 依澄の同室者もいい人で、私がいつ来ても迷惑な顔一つしない。この部屋は私のオアシス。 その他この学校独自のシステムについての説明とか、腐的話にも付き合ってもらってたりする。 今も姉に送ったメールと同じテンションで同じ内容をとうとうと語ってるんだけど、依澄は話の腰を折ったりせず、偶に頷きながら静かに聞いてくれてる。 よ! 聞き上手! 話し終え、漸く落ち着いた私に依澄は王子様スマイルで 「カナにも同室者が出来て良かったね、寂しくなくなるね」 いやそこかよ。これだけ長々と説明させておいてそこかよ、というツッコミは不要。 彼はノーマルなので。多分私の話の半分は意味分かってなくて流したんだと思う。ド天然ってのもあるけど。 いつもの事だ。 私がこの学校に来た理由を話す際、芋蔓式に腐女子である事も言っちゃったんだけど、それだって依澄に掛かれば 「んー、カナは人が恋愛してるのを見るのが好きなんだね」 で終わりだ。 穢れを知らない微笑みで。 わざわざ訂正するのは虚しいからそういう事にしておいた。 いかに自分が汚れてしまったのか思い知らされてショックだったなんて……そんな事ないんだから! けどどうして涙が出そうになったのかな、考えない考えない。 「いっつもいっつも付き合ってくれてありがとね」 言えば依澄は煌めきを惜しげもなく放出しながら「楽しいからいいよ」と微笑んだ。 依澄は雰囲気だけじゃなく、外見も王子様なんですよ。 美人なお母様に似た、繊細で穏やかさの滲み出た顔をしている。 あとド天然もお母様似だ。 妄想が広がること享け合い。けれど彼に対しては自重している。 だって依澄にはずっと想いを寄せている女の人がいるから。 ご近所に住む、美人だけど性格が突き抜けている面白い大学生さん。 依澄とは真逆のちゃきちゃきした人。 惜しい、実に惜しいとか思って……ない、よ……。 でも友達の本心を捻じ曲げてまで妄想のおかずにしちゃうのはさすがに良心が痛むもの。 涙を飲んで彼の恋を応援してます。NLも大好きだよ! 少女マンガ展開とか萌えるよねーっ。 end '10.4.25~5.3 前 | 次 戻 |