▼2 と、浮かれていたはずなのに、私の足取りは重い。そして亀よりも遅い。 「おーもーいーっ!」 ずるずる、足を引き摺る。私じゃない、私はちゃんと歩いてるよ。 ただこうね、私の首に巻きついて体重を預けてくる男がね。 「自分で歩け! はい、右左右左」 「えー俺もう疲れて動けないよー、動くと足もげるぅー」 「もげろ!!」 疲れるほどの事なんもしてないだろうが! 地面から離れる事のないその男の足を思い切り踏んづける。 声にならないと言った様子で足を抱えて悶える男、折笠 基(おりがさ はじめ)。 ラブレターの件で笑い転げてたうちの一人。つまりお友達だ。 オレンジに近い茶髪をワックスで立てて、外見はちょっと気にするタイプ? 切れ長で細い目と八重歯が猫っぽい。 背は稔とどっこいどっこい。けど若干基の方が体つきはしっかりしてる。 一見ヤンキーっぽいけど、喋ってみれば人懐っこい面白い奴だ。 やっと軽くなった肩をくるりと回し、基をそのままに歩き出す。 「カナちゃんひどいー」 「ひどくない。ハジの存在がひどい」 「え、それ意味違くね?」 「違くない。ほら早く行こう」 基のジャージの裾をむんずと掴んで歩かせる。 いやん、とか聞こえてきたけど無視だクソ虫め。かけてみた。 現在、私達は他クラスと合同体育を行っている最中。 何チームかに別れてそれぞれ対抗試合なんて面倒なものをしている。 もうすぐ球技大会らしいから、その練習とか。どうでもいい。 私と基は同じチームでさっきドッジボールやってきた。 先生が出張でいないから合同になったんで、だからまぁ、その辺は適当感たっぷりなわけだ。 運動は嫌いじゃない。それなりに動ける方だと思ってる。 だけどやっぱ男と女じゃ力も基礎体力も雲泥の差があるもんで。 ドッジボールが一番楽だって判断した数十分前の私を呪いたい。時をかける能力があったら絶対他の選んでたね。 あんな狭い空間を、体力を持て余してる男共が遊び半分とは言え、私にとっては剛速球のボールを縦横無尽に投げつけてくるのって恐怖以外の何物でもなかった。 いっそ一思いに殺してくれ! って叫びそうになった。 基はやる気ないの丸出しで、早々に当たって外でグウタラしてるし。 泣きじゃくりながら逃げたさ! あっさり終了して、二回戦なんて更々する気ないから解散。 私と基はまだやってる他の友人達の元へ向かってるところだったのですね。 ああほら、稔がいる。ソフトボールやってる。 邪魔にならない位置で見学でもしていようかと思ったら、他にも同じようにソフトボールを大人しく見てたり野次を飛ばしたりしてる人が結構いる。 稔の格好良い勇姿を目に焼き付けているんですね、わかります。 「おーかたミンってばピッチャーじゃーん」 基がのしりとまた後ろから圧し掛かってきた。 なんだってコイツはこんなにもスキンシップ過多なんだ。そんなもん稔にやれ。 基は仲良くなって直ぐくらいからよくひっついてくる。 最初は本気で焦った。 そ、そんな密着したら女だってバレちゃうよ! って。 なのに未だ私はのうのうと学校に通っているし、基の態度も変わらない。 結論を言いますと、バレませんでした。現在進行形でバレる様子がありません。 前 | 次 戻 |