「方波見くんおやすみー」

 リビングでパソコンを弄っていた私は寝室に消えてゆく方波見くんに手を振った。
 パソコンの画面に表示されている時間はまだ21時台だけど、初日だし色々疲れたんだろう。

 食堂で会った私のクラスの(明日からは方波見くんのクラスメイトとなる)子に質問攻めにあってたし。

 食堂といえば、生徒会の面々との遭遇イベントが無かったのが残念でならない。
 けど私もそんな一気にあれこれ来てもお腹一杯で思う存分堪能できないからね!
 リバースしかねない。

 明日以降のお楽しみに取っておくとしよう。

 送信完了の文字を確認してメールの画面を閉じた。

 相手はお姉様だ。


『転入生キタ━━━(゜∀゜)━━━ !!!!! 』


 という件名で、今日私が心の中で叫んだほぼそのままを認めて送った。
 携帯電話でぽちぽち打ってたら夜が明けちまうぜ。

 ふふふ、まさか自分の行動が逐一見ず知らずの女に筒抜けだなどと、よもや思うまい方波見くんよ。

 シャットダウンし終えたノートパソコンをパタンと閉じて立ち上がる。

 手にはカードキーと携帯。


 ちょっくら旅立とうと思います。
 探さないでください。
 ぼくは死にませーん


 という置手紙をテーブルの上に。


 さて、目的地へ着くまでの道すがらにこの学校について語ろうと思います。
 順番違くね?っていう。

 小中高一貫校ではあるけれど、それぞれは完全に独立していて、場所も全く別だ。

 中学はまだここから近い位置にあるらしいけど、小学校は町の真ん中にあるとか。
 さすがに小学から寮生活させるわけにはいかないから、全生徒が家からの通い。となると交通が不便では生徒が集まらないんだろう。
 更には小学校は共学だとか。

 そんなこの学校の生徒の約6割は小学校からの持ち上がり、残り3割が中学校からで、最後の1割が高校からだ。

 つまり中学から全寮制であり学校の敷地内にほぼ隔離状態であるため、半数以上が小学卒業と同時に女子との接点を絶たれた生徒という事になる。

 前後左右を同性ばかりで囲まれた空間に、この思春期真っ只中の多感な時期に閉じ込められて、様々な葛藤や苛立ちや鬱憤を持て余し、全て吐き出す行為を、やはり同性に向けてしまうのは仕方のない事かもしれない。
 言葉の通り、男と男で大人の階段を上ってしまいまいた的な意味合いも含めて。

 ただ生理現象への対処と割り切って、または卒業までの擬似恋愛として、はたまた真剣交際だってあるだろう。
 そういったものが、外の世界よりも身近で受け入れられやすい空間。
 
 とは言え、BL小説宜しく大半の生徒が、という訳ではない。
 
 私の予想ではどんなに多く見積もっても2割強。
 それ以外は、やるならそれでもいいけど自分とは関係ないところでやってくれって人と、あからさまに拒絶する人、もしかしたら私以外にもけしからんもっとやれとか思ってる人がいるかもしれない。
 
 
 そんなもんだ、そんなものなのだリアルなんて!
 
 後はやっぱお金持ちが集うだけあって寄付金も結構入ってくるのか施設は充実してるし綺麗だしで、生活する分にはとても快適だ。
 教師と生徒の仲も全体的に良好。
 
 カラフルな頭で耳はキラキラ光るものが沢山ついてる不良さん達もウロウロしてることから分かるように、風紀の面はかなりユルイ。有名な進学校のはずなのに。
 だけど前、口にピアスしてる子が先生に注意されてるのは見た。
 何かしら基準はあるようだ。
 
 私が一ヵ月半で入手した情報はそんな所かな。
 
 ああ、良い具合に目的地に着いた。
 
 
 ピンポン、ピンポン、ピンポピンピンピンピピピ
 

 高速連打。Bダッシュ。高橋名人が乗り移った。とか遊んでたら
 
 「うるっせぇぇーっ!!」
 
 ドアが開いて怒鳴られた。私がチャイムを押した隣の部屋の住人から。
 私が用があって尋ねた人は同時にドアを開けて今目の前で
 
「ああカナいらっしゃーい」
 
 とふわふわ花を飛ばすような笑顔を振りまいている。
 綿菓子みたいな雰囲気のこの子は、私の幼馴染で中学からこの学園にいる依澄だ。
 
 べーっと舌を出して隣人を馬鹿にしつつ部屋の中へ逃げ入った。
 


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