「……………」

 喋る気力もありません。
 机に突っ伏してかれこれ10分は経過しています。

 好奇の目に晒されるのに耐えきれなくなった私は空き教室に忍び込んで消沈してたんだけど、そこへ何処から聞きつけたのか内海くんがやってきて。
 
 事の顛末を説明してやった後のこの人のニヤケ顔が、私の心をへし折りました。
 
 おい腐男子なのは勝手だが私で妄想するんじゃねぇ!!
 
 なんて言えない、ちょっと前に唯先輩とウタでしまくってた私に言う権利ねえぇー。
 
「いいじゃん方波見イケメンなんだから。やっぱ攻めはイケメンに限るよなぁ」
「稔が攻めでオレが受けなの!?」
「じゃあ堂島攻めれんのか?」

 撃沈。
 
 ゴン、と額を打ち付けるくらいの勢いで机に沈み込んだ。
 
 いやもう、一難去ってまた一難ってこういう状況の事だよね。
 ぶっちゃけ有り得ないよ!
 
 私は変身して悪の組織と闘う女子中学生並みのタフさ持ち合わせてないから勘弁してちょうだい。
 
「方波見が嫌なら、この前の西峨先輩はどうよ」
「さすがうつミン。先輩の苗字知ってんだねって、バカァッ!! こわ、怖すぎるから先輩ルート! 彼言っておくけど、乙女ゲーの攻略キャラじゃなくて、RPGのラスボス以上に強い隠しボスだからね!?」
「ああ、最強装備でレベルMAXまで上げておかないと瞬殺されそうだよなぁ」

 もしくは恐ろしいほど難解なダンジョンの最下層にいて、更にはレアアイテムを持ってないと相手してくれないっていう気難しいやつ。
 
「そういや堂島の友達が写メ撮ったんだよな? それ欲しいって言っといて」
「……何で?」
「ん? いや別にネットに流すなんて事はしないから大丈夫。ただ薄い本が出来そうな想像して楽しむだけだから」
「オレ内海くんの二次創作に使われちゃうの!?」

 恐ろしい! 腐男子スキル高すぎるわ!!
 
 ああちくしょう、内海くんのお陰で気分が浮上してきた。
 彼に慰めの意思があったのかは分らないけど。
 
「元気出たみたいだな」

 ぽんぽんと宥めるように頭を撫でられた。
 
「う、うつミン。しのびねぇ……!」
「うむ、お礼はさっきの写メで構わんよ」
「慰めの報酬!? うむじゃない!」

 稔なら男前に、無償でよしよししてくれるのに!
 
 いや男前よしよしってなんだ私。
 しっかりしろ、まだ頭が混乱してる。
 
 こう思うと稔ってやっぱり優しいよね。
 内海くんや唯先輩は当然のように見返りを要求してくるけど、彼からは「友達なんだからあたり前田のクラッカー食べたい」としか言われたことないよ。
 
 今度大量に買って与えておこう。
 
 あれ? 何の話してたんだっけ。
 
「そうそう、さっきの話に戻るけど。オレはピュアブラックの方でよろしく」
「そんな話をした覚えはないが、分かった。方波見がホワイトだな」

 話が早くて助かるぜ。
 
 内海くんと話してるとどこまでが脳内一人語りで、どこからが二人会話なのか境界があやふやになるんだよね。
 
 姉とだったら全部筒抜けなんだけど。
 
「で、その相方はどこ行ってんだ?」
「稔なら地元の友達が遊びに来たとかで、迎えに行った」

 慌てて教室から出て来てたのも、友達のところに急いでたからだったんだね。
 
 友達って不良モドキさんだろうきっと。ちゃんと来てくれたんだ。遠いから来ないと思うって言ってたのに。
 
 まぁ私は来ると信じてたけど。だってね、彼絶対に典型的なツンデレヤンキーだよ、勝手に想像すると。
 
 招待券渡した時の反応:ふん、捨てるのも勿体ねぇからな貰ってやるよ。行かねぇけどな!
 
 文化祭当日の態度:来てやったぞ。た、たまたま今日の予定が空いて暇になったからってだけだからな!
 
 という、テンプレ型のツンデレヤンキーだよ。ただの妄想だけど。
 
 やべぇたぎってきた!
 
「ちょっくら稔とその友達を尾行してくる!」

 堂島だけずるい! って内海くんの素直な叫びが聞こえて来たけど、私は既に猛ダッシュで教室から飛び出していた。
 



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