「あぁーかたミンとカナくんだぁ。お帰りー」
「と、時芽!」

 クラスから少し離れた所にいたらしい時芽が手を振っている。
 
「何で脱いでないの!?」

 駆け寄って、願望が潰えた不満を八つ当たりしてみた。
 稔に頭を叩かれた。
 
「あははぁ変な話してたんだぁ?」
「それより何があったんだ」
「ああアレねぇ」

 ちらりとクラスの人の群れを見て時芽が頷く。
 開いてるのか閉じてるのか分らない糸目で本当に見えてるのかは分からないんだけど。
 
 多分見えてるんだろうね。じゃないと目閉じたまま普段生活してるってどんな仙人だよって話だもんね。
 
「ちょぉっと面白い事になってるんだよぉ」

 ふふふ、と笑いながら井戸端会議中の奥様のように口に手を当てる時芽。
 
 何だぁ勿体ぶってからに。
 
 見てみなよ、と促され教室の窓に近づこうとした時だった。
 
 ハッ!!
 
 歴戦の戦士か私は! というくらいの察知能力を発揮した。
 それはもうモビルスーツのパイロット並みの。
 
 この先に行っちゃいけない。
 本能的な危機感に逆らわずに私は稔の後ろに下がった。
 
 一瞬だけ怪訝そうに私を見た稔が中を覘き
 
「お、おい」

 慄いた。
 不安を煽る反応だなぁ!
 
「堂じ――」

 ドォンッ!!
 
 稔の声を遮る鈍く重い低音。
 今度こそ周囲から悲鳴が響き渡った。
 
 教室から飛び出してきた男の人がそのまま廊下の壁に激突して崩れ落ちた。
 
 ここはどこの天下一武闘会ですか!?
 
「キャァッ!!」

 一際大きな女の子の声に思わず中を覗き込んでしまった。
 
 教室はえらい事になっていた。
 
 机はなぎ倒され椅子はその辺に転がっている。
 飾り付けも半分は壊され、見るも無残な状況。
 
 クラスの子達は端っこの方で固まってした。
 全員の視線が一点集中している。外野も含めて。
 
 視線の先にいた人はこちらに背を向けていた。
 その後ろ姿に、心臓がドクリと波打つ。
 
 目が逸らせない。みんなが凝視しているのも納得だ。
 
 彼はガラガラと窓を開け、それから。

 ひょいと外へ飛び降りた。
 綺麗な色の髪が視界から消えた。
 
「ええぇぇぇっ!!」

 一体何人の声が重なっただろう。
 あまりの事に対応しきれないでいる。
 ワタワタ慌てふためいているのは一人や二人ではない。
 かく言う私もそう。
 
「ここ二階なのに何やってんのー!?」

 窓に駆け寄って身を乗り出して下を見た。
 見事に彼は着地したらしく、すたこら走って行く所だった。

「人間技じゃねぇよもう」

 いつの間にか隣に来ていた稔がそう呟く。
 まったくもって同意見です。
 
 足の一つでもくじいてればまだ可愛いものを。
 
「ねーねーいたでしょ? 魔法使い!」
「は?」
 
 下を凝視したままの私に代わってか稔が、愉快そうな時芽に一言返す。
 そういや以前そんなような事を言っていたような。



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