▼3 そろそろ返そうとしたとき「外しちゃ駄目!」と遠くで聞こえた。 私に言われたんだとは思わなかったんだけど、手を止めてそっちを見た。 グランドのトラックから逸れてこっちへ走ってくる先輩が一人。 今私達は放送席のテントの近くにいる。 ここは限られた人しか入れないから人が少ないので競技を見るのに最適で、逆にグランドの方からもよく見える。 だからバッチリ走り寄ってくる先輩と目が合ったわけで。 「ゆ、柚谷先輩……?」 はふはふと息を切らせている会長様。 可愛いなぁとか思ってしまったけど、真剣な顔をしてらっしゃるから取り敢えず黙っておく。 にしてやっぱシリアス顔だとこの人超カッコいいな。 喋ると残念なタイプよね。 「一緒に来て」 私の腕を掴むと、有無も言わさず走り出した。 「え、ちょっ!」 当然私も引っ張られるように連れて行かれ。 呆気なくグランドに飛び出した。 どうやら今は借り物競争中だったらしい。 そしてどうやら私は借りられたらしい。許可もなく そりゃぁ犬だろうとイケメンである所の会長にお願いされちゃったら断る自信なんて、足の小指の爪ほどもないけれども。 てか、思った以上に、走るのね!? もうトラック半周はしたよ。 しんどい、息切れする、先輩意外と足早い! 「いや……どっちかっていうと足の長さの違い、ですかね」 「おつ、かれ」 二人してぜぇはぁ。 呼吸困難な上に心臓が痛すぎてゴールした瞬間に地べたに這いつくばった私、の隣にしゃがみ込んだ先輩は頬を上気させた顔で覗き込んできた。 訳も分からず走らされた私に対するご褒美ですね、ありがとうございます。 下から見上げても美形な会長が、顔を赤らめて……。 この先を妄想しただけで3日はいける。 カメラを持ってないって事実が、さっきの十倍は悔やまれる。 「ところで先輩、一体何てお題目だったんですか。オレどんな条件に引っかかったんスか」 眼鏡を外すなって言ってたから、まぁ十中八九このインテリ眼鏡が関係してるんだろうけど。 「体育館シューズ履いてる生徒」 「眼鏡一ミリも関係ねぇっ!!」 ああ履いてるね! 私あの忌まわしき球技大会以降ずっと外履きにしてるからね体育館シューズ。 そして体育館はもう普通の上履きで押し通してる。 でもだったら「外しちゃ駄目!」のあのくだりは一体なんだったのよ!? 眼鏡萌えか、会長もしかして眼鏡萌えする人なのか!? 「メガネ? え?」 「先輩大きな声で外すなって言ってたからコレが目的なのかと」 「だって目が悪いからかけてるんでしょ? 無いと見えない」 ……今まで先輩と会った時一度たりともしてた事ありませんけどね。 まぁ先輩の親切心だと思っておこう。 さっきから会長がずっと持ってる旗のお蔭で順位は2位である事が判明。 あらなかなかの好成績じゃないの。 頑張った甲斐があったというものだわ。 本来なら一位を取って、俺達ってば息ピッタリ! もうこりゃ付き合うしかないね! 的展開を期待して止まないってのに。 どうしてここにいるのが稔じゃなくて私なのか。 最近、稔のフラグのスルースキルがチート級なんじゃないかと思っている。 ダメだ早く何とかしないと。 前 | 次 戻 |