「しゃらんら」

 て、なんて魔法少女の掛け声だっけか。
 思い出せなかったせいでツッコミ損ねた。
 
「魔女っこか」

 呆然とする私の隣で、半目で睨んでいた稔がサラッと答えを出した。
 メグちゃんかそうか。
 
 なんで稔知ってんの?
 
 いやそれを言うならまず、その掛け声を発した時芽だよね。
 突然何を言い出すのやらこの人。

 何処のを圧し折ったのか木の枝をくるくる回しながら呪文を唱える男子高校生の図ってシュールだ。
 私が腐女子じゃなかったら確実に引いてたよ。
 
「とうとう頭湧いたか?」
「やだぁもー、かたミンてば辛辣なんだからぁ」
「キモい」

 うん、稔の意見に一票。
 どうしたんだろう、時芽のテンションがなんだかおかしい。
 
「アッキーニャどったの?」
「その呼び方がどうした」
「……かたミー気持ちは分かるけど基の言う事にいちいちツッコミ入れてたら前に進まないよ」
「分かってる……分かってるんだけど!」

 わなわなと震える稔。
 彼の心のうちに宿るツッコミ魂がどうしても許さないのだろう。
 厄介なものだね。
 
 真面目な稔は基の悪行を見逃せないようなので、彼の為にひと肌脱ごうじゃないの。
 基が稔の鋭いツッコミに気を取られている間に後ろに回り込み。

「どっせーい!」
「膝カックン!?」

 なんと!? と時芽が驚いた声を上げたけど、残念ながら目は見開いてはくれなかった。
 基を痛めつけた程度では時芽を開眼させるだけの効力は得られないらしい。
 
 希望通り地に崩れ落ちた基を満足気に見ている稔。
 で、やっと本題。
 
「いやね、さっき食堂に行く途中にすごい雰囲気のある子を見かけてねぇ。多分生徒なんだろうけど、ちょっと僕らとは世界が違う感じがするって言うか」

 珍しく曖昧な台詞で言葉を濁している。
 首を捻って考えるような仕草。
 時芽自身もよく状況を理解出来ていないような、どう説明したらいいのか迷っている風だ。
 
「あの子見てたら魔法とか使えるような気がしちゃってさぁ。スティックぶん回してみたけどやっぱ出来なかったぁ」
「おいどこからツッコんで欲しいんだ?」

 まずはさっき食堂に行ってたって所だよね。
 リレーが終わってから姿が消えたって聞いてたけど、食堂でサボってやがったか。
 
 不思議な子見かけたからって、その子じゃなく時芽が魔法が使えるわけがないよね。
 スティックじゃなくてただの木の枝だしね。
 
 そんなものかしら。
 
「初等部からいる時芽が知らないってことは先輩?」
「うぅん……私服だったからなぁ」

 煮え切らない返事。
 
 独特の雰囲気を持った私服の生徒がウロウロしていた。
 それしか情報がないんならどうしようもない。
 
 狂犬に首かじられたと思って忘れる事だよ。
 私は何があっても忘れませんが。
 
 魔法が使えるような、ですって?
 そんな不思議な子が目撃されているとか、それ絶対この学校のどこかに別次元と繋がってる扉がある伏線だよね。
 
 ドアを開けたらそこはイケメン揃いのウハウハワールドだったっていうフラグだよね。
 
 つまりは異世界トリップ!
 右も左も分らない世界で一人途方に暮れていた所を偶然助けてくれた人が運命の人!
 人外(獣耳)設定とか美味しいです。



end

'12.4.26^12.6.3
 


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