▼トキメキワールド 体育祭、なんて魅惑の詰まった言葉だろう。 それまでそんなに話した事なかった子とも、場のテンションに任せてあっさり打ち解けられたり。 綱引きの綱が実は臭くて、手に臭いが移ってちょっぴり嫌な気分になったり。 クラスじゃあんまり目立つ方じゃなかった子が、何気に活躍してビックリしたり。 もっと言えば全校生徒が集まる数少ない行事で、要するに華麗な運動神経を披露すれば稔は瞬く間に他クラス他学年のイケメン達に目をつけられるっていう、片時も目を離せない絶好のイベント。 私の希望としては、借り物競争に出場した生徒が「一緒に来て!」って少し焦りながら稔の腕を掴んで連れてっちゃうのが見たい。 幾らでも貸したげるよ、もちろん返却期限ナシで。 なんて事を悶々と考えてる間に午前の部は終わりました。 「あーもうお腹いっぱいで動きたくないぃ」 「心配しなくても午後の種目は何も出ないでしょ?」 お腹を擦る基の隣で、プログラムを眺めながら言う。 殆どクラス対抗の競技は午前中に終わってて、後は勝ち残った上位組の決勝戦だったり、部活対抗とかお遊び半分のやつしか残って無い。 ちなみに100mリレーは完膚なきまでに依澄にやられて終わりました。 これから依澄の事は韋駄天と呼ぼう。 「次は何だっけ?」 「リレーだよ! そのために稔と時芽が招集されたんじゃん」 「うわぁ昼飯食った後すぐに疾走とか、かーいそうね。横っ腹痛くなっちゃう」 なんて友達がいのない奴なの基。 ここは二人の応援に特別な熱を込めてる生徒を逃さず見つけ出すために、敢えて選手ではなく応援する側に目を光らせる大切な場面なんですよ。 しかもこのリレーは決勝戦。 午前中にウチのクラスが勝ち残ったから他学年と勝負するの。 つまり全学年の皆様が観客。 そんな中での稔の勇姿は、そりゃもう多くの方の心に残ろうってもんです。 「は、ほらほら時芽がスタートち……」 「カナちゃん?」 「待ってまだ位置についちゃ駄目ぇっ」 「え? どしたの急に!?」 アンカーのところで待機してるのって、稔の近くに立ってるあの麗しいお姿って鷲尾先輩じゃないですか!? ちょ、稔なんでスルー!? 絡めよ、そこは親しげに話せよ馬鹿!! そして私はどうしてデジカメを持っていないんだ!? いやむしろ運動会で我が子の活躍するところを一秒も逃すものかと闘志を燃やすお父さんのような必死さで、ビデオカメラで録画したい!! 最近の高画質高性能なカメラで、先輩と稔の対決を……。 「うわぁん悔やんでも悔やみきれないよ! 欲しいっつったら何でも買ってくれるパパが欲しい!」 「また何でそんな意味不明な話になってんのか分かんないけど、碌な人間に成れないからその夢は諦めろ」 プログラムで顔を覆ってさめざめと泣く私に、容赦ないツッコミ。 うんこれは基じゃないね。 何だかんだで基ってば優しいからこういう尖がった事言わないんだよね。 「そうやって大人はいつも子供の夢をぶち壊すんだ……! サンタさんはいるんだもん!」 「いやだから何の話してんだよ堂島は」 顔を上げたら予想通りそこにいたのは筧くんでした。 「筧んちょじゃん、何か用?」 基は気が付けば私の首に腕を回し定位置に。 筧くんも見慣れたせいか、そんな基を見ても特に気にも留めず。 「出番だよクラス委員」 キャラにない、にっこりと笑顔で言った。 何言ってんの!? 私には今から稔と鷲尾先輩とあとついでに時芽のスーパーイケメンタイムをだな…… 「早くしろよ堂島、仕事増やされたいのか?」 「ごめんなさい、行きます行かせていただきマッスル!!」 所詮私が委員長様に敵うわけがないのよね。 前 | 次 戻 |