「うっぐ……」 込み上げてきた嗚咽感に逆らわず咳き込むと息と共に血が飛び出した。 「なんで」 粗雑に口元を拭った。 隼人は先程から普通に攻撃してくるだけだ。 魂が人間であっても入れ物が神の使いであるからただ触れただけでは神力の影響は受けない。 何故神力を使わない。 神気とは本来魂に纏うものだ。 勇人が今使っているのは身体に滲み付いた残りカスに過ぎない。 だから隼人がその気になれば勇人などすぐに殺せてしまうはずなのだ。 なのにそれをしないのは。 「……どこまでも、どこまでも馬鹿にして!」 力を使えば人間の勇人の身体では負担が大きい。すぐに壊れてしまいかねない。 また攻撃を受ける側の勇人の魂も然り。 今更何を気にしているのか。今更過ぎるではないか。 「もう死ねよ! お前等なんか力だけ残して消えればいい!」 前に翳した手の先に集まった白い光の球を隼人に向かって放つ。 避けられなかった隼人は咄嗟に腕で身体を庇った。 「隼人!」 手首から肘に掛けての皮膚が爛れていた。顔を苦悶に歪ませる隼人の動きが鈍くなった。 続けて勇人は何発も同じものを放った。 「はや……」 「君もすぐ同じようにしてやるよ」 七海に気を取られた一瞬をついて、隼人が一撃を繰り出した。 痛みでまだ動けないと思って油断していた。 避けられない。 自分がどうなるのか目に浮かべた直後、前に飛び出してきた人影で隼人の姿が見えなくなった。 勇人を庇う形で隼人に向き合った七海の顔の僅か数ミリ手前で隼人の拳は止まった。血に染まった彼の手を両手でそっと包み込んだ。 「……あんた達がどっちもバカ!」 手に力が入り、隼人は顔を顰めた。痕が痛々しい。 「君に言われたくないな」 敵に背を向けるような奴にだけは。勇人は七海の首を後ろから片腕で抱いた。 「動くなよ隼人」 先に七海を消してしまおうか。 怒り狂った隼人の相手はしんどいが、いつまでも目の前をちょろちょろされても鬱陶しい。 どうしてやろうかと思案していると、腕にぽたりと液体が当たった。 「どうして分からないの……、死ぬのは誰だって怖いよ」 勇人だけじゃない。勇人だけに特別訪れるものではない。 「楽な死に方なんてない。どうやったって苦しいって知ってるから死にたくない。当たり前の事だよ、隼人だって変わらない……!」 七海の涙声は最後叫びに近かった。 何故彼ならば生命を奪ってもいいなんて勘違いをした。 どんな自分でも受け入れてもらえるという甘えか。 事実隼人は与えようとした。 だがそれが死んでもいいと思っている、死ぬのが怖くないと思っているのと決して同義ではない。 ←|→ back |