「手伝いって、一緒に榊さんとこ行ってくれるって事?」
「分かんない」
「帰れ」

 冷たく放った隼人に銀髪の少年は牙を剥いた。仲が悪いようだ。
 プルルルル
 電話が鳴った。リビングに置かれてある子機を美弥子が取る。

「だったら手伝いって何だ」
「あ……あの、あたし達人間に操られてたとき、見たの。あの人あたし達以外にも使役してた」
「あれは邪だ」
「元は多分、あたし達と同じ神の使いだったと思う、でも穢れに負けると邪になる」
「要するに見境無く人を襲う化け物だ」

 ギンとシャクの説明に首を捻っていた七海に隼人が補足を入れる。

 邪は思考能力が低くただ闇雲に人を襲う。
 完全に手なずけているわけではなく、いつもは動けないよう縛りつけ、必要な時だけ解放する気なのだろう。

「ねぇそういえば、ギンとシャクを操ってたっていう人間って……」
「勇人だ」

 予想通りの答えに七海は項垂れた。隼人の身体の中にいる片割れが、隼人の神力を使ったのだ。

「七海」

 電話の子機を持った美弥子が呼んだ。駆け寄れば「昌也よ」と子機を渡された。
 兄が電話を寄越すなんて珍しい。

「はい七海だけど」
『榊ん家、どうした?』
「はぇ?」

 急に問いかけられ、しかも内容が掴めず間抜けな声を出した。だが嫌な予感に鼓動が早くなる。

『さっきから病院に榊の人がどんどん救急車で運ばれて来てんだけど』

 電話の向こうでは慌しい足音と喧騒が響いている。只事ではない雰囲気が伝わってきた。
 服をぎゅうと掴む。

「私は何も。そっちは何て言ってた?」
『すげぇ爆発音がして、家が半壊してたって』

 勇人が目覚めた。そうとしか考えられない。背中に冷や汗を掻いた。
 結界を張った部屋に閉じ込めていると言っていた。その部屋ごと吹き飛ばしたのだろう。
「ごめんお兄ちゃん切る! ありがと!」

 子機を放り投げた。
「隼人! 勇人が起きた……!」

 隼人の反応は早かった。言い終えたと同時にリビングを飛び出した。

「ちょ、待ってよ!」

 慌しく七海も後を追いかけた。
 ガチャン、バタンと乱暴に玄関を開閉する音がして「もう!」と美弥子は腹を立てる。

「考え無しなんだから」

 ゆっくりとした足取りで戸棚に近寄り二段目のボックスを開ける。いつもの定位置から車のキーを取り出した。

 近所とは言え榊の家まで走って行くだけで体力はかなり消耗される。
 隼人は大丈夫かもしれないが、普段から特に運動をしているわけでも得意でもない七海には辛いだろう。

 こんな時こそ家族を上手く利用すれば良いものを。
 不器用と言うよりも要領の悪い七海に呆れた。

「じゃあちょっと行ってくるわね」
「はーい行ってらっしゃい」

 元よりついて行く気のない朝陽は切迫した七海達を見ていただろうに全く緊張感を抱かず呑気に手を振って美弥子を見送った。

 一人になりする事の無くなった朝陽はテレビでも見ていようかとリビングのソファに腰掛け、いきなり押しかけてきたカラフルな少年少女が消えている事に気付いたのだった。




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