「お姉ちゃんもうそろそろ……」
「ああん?」
「いえ何でもないです」

 続きをどうぞ、と手の平を見せた七海にガーンと音が聞こえそうなほどショックを受けている少年少女。

 素直なリアクションが可愛らしいな、とついつい頬が緩んだ。しかしこれ以上は彼等の心に一生癒えない傷を残しそうなので今度こそ割って入る。

 ぱしぱしと全く痛く無さそうな軽い音をさせて二人の頭を叩き「これでもういいでしょ」と朝陽を宥めた。

「な、ななみ……」
「うんうん、皆まで言わなくていいから。鼻水拭こうね」

 ティッシュを少年の鼻に押し付けていると少女が脇にしがみ付いてきた。

「何よ七海ったら、私を悪者に陥れて自分だけ優しいお姉さんキャラ確立させちゃって」
「私何もしてないよ! お姉ちゃんが勝手にその地位に落ち着いただけでしょ!?」
「言っとくが七海もキレたら同じようなもんだぞ」
「言わなくていいのよ隼人、そういう事は!」

 一人良い人と認定された七海がどうも朝陽達は気に食わないらしい。

「仲が良いわねぇ」

 美弥子はお茶を啜りながら呑気に傍観していた。

「ねぇ七ちゃんその可愛らしい子達紹介してちょうだいな」

 予想外にも子ども好きである美弥子は上機嫌だ。

「ああ、この子達は隼人の兄弟の……何?」

 七海は名前を知らない。隼人に目配せするも「知らん」と素っ気無く返された。

「まだ無いんじゃないのか」
「ない、です」
「ななみ付けて!」
「はい?」

 名前が無いという事にも驚いたが、付けろとせがまれた事に慌てた。はっきり言ってネーミングセンスなど七海は持ち合わせていない。

 一生ついて回る大切な名前を一介の高校生に付けさせるなど荷が重過ぎる。

「そう言われても、そうね……」

 どうしよう。かなりテンパっていると口を押さえられた。隼人の手だった。

「やめとけ。名を付ければそれは絆になる。そんな事したら一生こいつ等お前に付き纏うぞ」

 名づけ親と言うくらいだ。七海には彼等の親になれるほど大人でも人間もできていない。
 責任を背負いきれない。

「そうだね、うん。でも無いってのも困るし。じゃあ君はギンくんで、君はシャクちゃんね」

 男の子、女の子の順で指差した。

「これはニックネーム、愛称。正式名称じゃぁないから。それはまた別の人につけてもらうといいよ」

 結局は付けている。隼人は溜め息を吐いた。

「で、何しに来たんだ」

 漸く本題に戻った。二人は顔を見合わせた。

「七海のお手伝いに来たよ!」
「え、私? 隼人じゃなく?」
「白狐様がごめんなさいとありがとうの代わりに七海のお手伝いしなさいって」

 遠慮がちに少女が言うには白狐の命らしい。隼人は舌打ちしている。

 隼人の態度がこの通りだから白狐も素直に彼を助けろと言わなかったのかもしれない。

 親子だと知ったときはそれはもう驚いたものだが、結構似ているかもと思ったのは内緒だ。



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