「君が負け、留めている勇人の魂の半分も君の身体の方へと移ったとしても心配は要らない。頑丈な結界の中に閉じ込めているから出てこれやしないよ」

 神の使いの身体を持ってしても破れまい。随分とやつれた顔で榊は笑った。甘い、とは思ったが情をかけるなと言う方が無茶だろう。
 
 それからも隼人は庵で耐え続け、もう終わりが見え始めたときに七海が現れた。
 平然と隼人に触れ、彼の暴力的な振る舞いも物ともしない。卑怯だとは思ったが彼女には何も教えず利用した。

 勇人の身体と隼人の心。その組み合わせこそが『榊 勇人』であると認識させ、その責任を負わせた。 何も事情の知らない七海がそう思い込むことによって勇人の魂の片割れへの拘束を強めさせた。

 暴れる事は無くなったが存在そのものはあり続けている。何れはそうなった。白狐が何を考え七海と隼人を勇人の精神世界へ送ったのかは知らない。

 だがそれによって七海は真実を教えられ、魂の拘束の鎖は無くなり今は完全な形で隼人の身体の中にいるだろう。
 結界により阻まれてはいても、何時まで持つのか疑問が残る。

「七海がいるから多少は慣れてるけどさぁ、結界だ魂だって胡散臭い話よねー。悪徳霊感商法っぽくね?」

 どうしてなのか面白そうに話す朝陽に七海は白けた目を向けた。

「悪徳に儲けてんのはお母さんだけどね」
「お母さんは大切な愛娘が危険に晒されるその保険料を受け取っただけじゃない。当然でしょ、言わば七海のためなのよ」
「だったらどうして私の懐は潤わないのかね」
「世の中そういうものなのよ」
「うわーなんか大きくぼかした!」
「……話進めてもいいか?」

 もう藤岡家の確率の高すぎる会話の脱線には慣れた。楽しそうに喋っていたのに、実は全く相手の話を聞いていない場合が多い事も。

 「ああごめん」と悪いと思っていなさそうな軽い謝罪を受ける。

「何の話だっけ?」
「お姉ちゃんはもう黙ってようか」

 自分でも言っていた通り、藤岡家の中では常識人の七海が朝陽に待ったを掛ける。彼女も姉に話を掻き混ぜられると何時まで経っても終わらないと危機感を抱いたらしい。
 ふうと息を吐いた。

「榊さんは隼人はこれ以上何もしなくて良いって言ってた。白狐は私に隼人を助けてやってくれって頼んだ」
 クソジジイ、と隼人が呟く。

「私は隼人が望むようにする、その手伝いをしたい」
「俺が望む……」
「但し殺せとかそういう物騒なのは無しだからね」

 隼人は苦笑した。例え自身を傷つけられても他者に同じものを返す行為を七海が決して行えない事くらい、この短期間一緒にいて嫌と言うほど解っている。

「俺が望むのは余生くらい自分のしたいように自由に暮らしたい、それだけだ。だから榊の奴等があんな状態じゃおちおち老後を満喫出来ない。俺の身体使って悪さされたら寝覚めが悪いしな」

 外の世界を楽しむのは問題を解決させてからでも遅くはないだろう。

「うん! 良かったぁ、これでもし勇人達放っておくって言おうもんなら顔面殴ってたところだよ」
「お前な……」
「ねー密談終わったぁー?」

 話に入ってくるなと除け者にされいじけた朝陽はリビングから庭に出て煙草を吸っていたらしい。携帯灰皿を片手に入ってくるところだった。

 七海が朝陽の方へ顔を向けたとき、朝陽の後ろに何かの影が過ぎったのが目に飛び込んできた。

「お姉ちゃん――!!」



end

'11.6.14~'11.7.29




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