女性陣三人は目配せた。誰が何を訊くのかとアイコンタクトで協議中だ。数秒後、朝陽がゆっくりと隼人に向き直る。彼女が一番手らしい。「隼人くんは……」と七海そっくりの真っ直ぐな瞳で見詰める。
 
「隼人くんは綺麗なお姉さんは好きですか?」
「関係ない質問却下ぁーっ!」

 朝陽と隼人の間に手の平を割り込ませ、視線を切断する。

「今それどころじゃないから! つーか正直言うとお姉ちゃんが一体何の質問あんのかなってちょっと思ってたよ!」

 全くの無関係ではないとは言え、かなり第三者寄りの朝陽がこの件に関して何の意見があるというのか。そして自分に関係ない事象に真剣に取り組むほどお人好しでもない。どうでもいい事言いそうだという予感はそこはかとなくしていた。
 
「もー……。でも質問って言っても私も自分でどこまで理解できてんのか怪しいもんよ」
「七海って理解力乏しいもんね」
「うるっさい!」

 だが朝陽の暴言を否定も出来ない。自分で見聞きした事でさえ解らないまま、流してしまっているような気がしてならない。だが考えようとして一番頭がこんがらがる部分が何処か、くらいは分かる。
 
「勇人の魂は結局、どこにいるの?」

 最初は勇人の中に狐の魂がとり憑いているのだと聞かされていた。
 だが本当はその狐こそが彼の身体の主導権を握っていた。
 
 ならば勇人の魂は身体の中で身動きが出来ずもがいているのかと考えた。だが白狐は言っていた。「不正解」だと。
 
「……俺の身体の中だ。勇人が俺を取り込もうとしたときにそうした。アイツの魂を半分に割って片方をこの中に閉じ込め、一方を俺の身体に入れた。勇人の妄執とぶつかって俺が勝てるとは思えなかったから……」

 最初は大人しく勇人に全てを明け渡そうと思っていた。
 上手くいくとは思えなかったが、好きにすればいいと。だが核を直接掴まれた際に流れ込んできた勇人の狂気にそれまでの考えを改めさせられた。
 
 万が一にも隼人を取り込められたら、自我が壊れ行く勇人はどうなる。大人しく削られてゆく生を、今度こそ享受するとは思えなかった。また同じことを繰り返す。何度も何度も他者を取り込み、または肉体を乗り換え。
 
 おぞましいモノに成り下がる。そう確信した瞬間に隼人は素早く行動に移した。
 半分ならば、という考えは正しかった。勇人の強すぎる我を抑え込むのは至難の業でかなりの苦痛を伴った。
 
 突如暴れ出し次々と身体に痣が浮かび上がる隼人に榊家の人間達は慄き、庵に軟禁した。
 
 庵に転がったままの隼人の損傷の激しい身体をどうすればいいのかと問うてきたのは勇人の父親だった。さすがに彼は自分が対峙しているのが己の息子ではない事に気付いたらしい。
 対処方法はと訊かれ隼人は迷い無く答えた。
 
「人間の、それも半分の魂しか入っていない抜け殻なら人間にだって触れられる。俺が抑え付けていられるうちに、この身体か俺の身体を完全に壊せ」

 殺せと。一度狂った勇人の精神はもう正常には戻らない。


 けれど榊は決断を下さなかった。
 



|
back



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -