「朝陽」
「だってホントの事じゃん」

 朝陽は正直な人だ。白は白、黒は黒。メリハリの利いた性格で思った事は全て素直に口にする。それは時として人を傷つけるが、彼女が語るのは真実のみ。
 
 だからこそ嘘や、真実を覆い隠すような回りくどいやり方を酷く嫌う。
 母親に窘められて機嫌を悪くした朝陽は「七海見てくる」と席を立った。

「申し訳ありません榊さん」
「とんでもない。痛いところを突かれてしまいましたけれど」
「私は榊さんのお気持ちお察ししますよ。親ですからね」

 我が子の為ならば手段は厭わない。人を騙し利用する事に躊躇しない。何と罵られようとも。
 そこに筋の通った理屈など不要だ。けれども、理解できる美弥子だからこそ榊の行動の不可解な点にも気付く。

「榊さんが助けたかったのは勇人くんでしょうに、行動は全て隼人くんの為なんですね」
「結果的には、ですよ」

 七海と隼人を会わせたのは、その事で勇人を救う糸口が掴めないかと思ったからだ。七海自身が何かに気付くか、隼人がヒントの一つでも溢さないか。

 隼人に榊の外に出る事を条件に勇人をどうにかしてくれと持ちかけようかとも考えた。

 だが二人のやり取りを見ていたら唐突に隼人に対する自責の念が心を占めた。隼人が話せるのだと知ったのは、勇人の身体になってからだ。それまでは一言も発する事はなかった。

 だから七海と普通に喋っているのにはかなり驚いた。それと最初に七海が隼人に触ったときのあの表情が。

 彼はずっとこうしたかったのだと気付かされた。何百年とあの庵での孤独に不平不満を洩らさずいた隼人だが、本当は人間が当たり前のように他者と過ごすように生きたかったのだろうと。

 そう思ったら勇人のことを抜きにして七海に彼を任せていた。外に出たところで七海以外の人間とはやはり接触出来ないが、彼女の存在こそが必要なのだ。勇人を諦めたわけではないが、隼人は隼人でもう楽になるべきだと思った。
 
「幸せを願っての行動なら誰も咎めはしません。私は好きですよ、貪欲な人」

 美弥子はにこりと笑った。




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