榊が語り終えたときにはもうお昼を回っていた。昌也は途中で仕事に出て行った。
 最後まで聞いていた美弥子と朝陽は神妙な面持ちでお茶を啜っている。

「要約してみますと、入学式早々に遅刻しそうになって食パンを齧りながら慌てて家を出た息子さんである勇人くんと、同じく遅刻ギリギリだと全力で走っていた隼人という狐が十字路でお互いに気付かず勢いよくぶつかり大きく頭を衝突させ、あろう事か身体と心が入れ替わってしまった! まあどうしましょう的少女マンガな展開って事ですね」
「……は、いえ……え?」

 ほぼ息継ぎなしに説明された内容があまりにぶっとんでいて、完全に榊は反応をし損ねてしまった。全くもって美弥子の言うような少女マンガな展開などではない。
 
 しかもよく聞いてみれば、狐が遅刻とは何の事だ。
 
 だが答えや質問をさして求めていなかった美弥子は自分一人で納得してしまった。「事実は小説より奇なりって言うけど本当ねぇ」なんて見当違いな所で感心しきりだ。
 榊は気を取り直すべく一つ咳きをした。
 
「……隼人の身体はあれだけの傷を負いながらももう殆んど再生されている。彼は完全に癒えれば勇人は動き出すだろうと言っていました」

 そうなる前にさっさと隼人の身体を完全に息の根を止めろと言ったのは、他でもない勇人の姿をした彼だった。魂が割かれている間に、と。
 
 神力を持つ隼人の身体を精神が崩壊しつつある勇人が持つのはあまりにも危険過ぎる。

 けれどもそれは却下された。榊には実の子どもを手に掛ける事は出来ず、他の縁者達は神力が失われる事を恐れたからだ。
 
 屋敷に呼び込んだ霊媒師達に頼んで幾重にも施してもらった結界の中に閉じ込めている。
 
 あれから未だ眠り続けているが、勇人の目が覚めた時にどうなるかは分からない。大人しく第二の隼人になる気はないだろう。

 結界が何処まで通用するのか。手塩にかけた息子を閉じ込め続ける罪悪感に耐え切れるのか。
 隼人と交わした約束を守り通す自信は実のところそれほど高くない。

「七海は口では色々言ってたけど実は家族が増えたの結構喜んでる。私も勇……じゃねぇや、隼人くんがこの家にいるの、本当に良いと思ってた。なのに後から後から実はこうだったああだったって。いい加減にしろって感じ。榊さん信用失くしますよ」

 かちかちと携帯電話を打ちながら朝陽が言う。態度は果てしなく悪く、言い方も投げやりだが彼女の言葉は何処までも真っ直ぐだった。



|
back



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -