血は出なかった。その事に気付いた途端、ナイフが手から零れ落ちた。床に落ちて半回転した凶器にはもう見向きもせず倒れた隼人ににじり寄る。

「隼人死ぬにはまだ早いよ」

 さっきまでの緊張も震えもどこかへ逃げた。心に広がるのは安堵だ。
 
 やっと。これでやっと願いが叶う。
 
 勇人がつけた傷口にそっと手を当てた。ジュウッと皮膚が焼かれる。気にしなかった。生きながらえたならば治るものだ。
 一呼吸を置いて裂けた肉の隙間に手を入れた。例えるならば強酸に手を浸したような激痛。無意識に叫んでいた。嗅覚が麻痺しそうなほどの匂い。
 だが耐えた甲斐あって隼人の核を掴むことが出来た。
 
 もう痛覚はとっくに麻痺していて勇人は感じられなかったけれど、こうしている間もずっと手の平からは煙が燻っている。気絶していないのが執念の強さを物語っていた。
 念願を叶える第一歩をようやっと踏み出した瞬間だった。
 
 躊躇う必要などない。勇人は核を身体から抜き出そうとした。が、その手首を強い力で拘束され動きが止まる。いつの間にか人型になっていた隼人が口の端から血を流しながら何かを呟いていた。
 
 聞こえない。声に出ていなかったのかもしれない。それでも隼人は勇人に向かって話しかけたのではなく、何かを唱えていたのだという事は分かった。
 勇人の腕を掴んでいる手とは逆の方を勇人の眼前に翳す。

「うあぁぁぁぁぁぁっ!!」

 脳が押しつぶされそうな圧迫感に知らず大声で叫んでいた。開けた口から吐血していた事にも気付かなかった。必死で視界を覆う隼人の手を払い除け、力一杯彼の核を体内から毟り取った。その勢いが消えぬうちに急いで飲み干した。




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