直接脳に叩き込まれる映像のえぐさに七海は嘔吐感を堪えきれなかった。ここは勇人の意識下だ。心の中とでも言えようか。

 吐瀉しなかったものの、喉に物がつっかえて呼吸を邪魔する感覚が付き纏い幾度も咳き込んだ。ひゅうひゅうと息が上手く飲み込めず不自然な音が喉から鳴る。
 
 しゃくり上げ、肩で息をする七海を勇人は何の感情も窺えない瞳で見据えた。

 どうしてこんな弱い子がのうのうと生を全うし、僕がここまで苦労しなくちゃいけないんだろう。神の身勝手な選定により榊なんかに産まれてしまったばっかりに。
 
 勇人だって、殺したくてした訳じゃない。隼人を殺さない方法があったならそうしていた。仕方なかったのだ。犠牲になってもらわねばならなかった。でなければ勇人は生きていられなかったのだ。

 そもそも、勇人を狂わせたのは隼人だ。隼人さえ榊家にいなければ違う未来があった。代償を払ってもらって何が悪い。

「だから……その眼で見るな!」

 勇人が悪者だと非難する眼。
 振り回した腕が七海の華奢な身体を後ろに飛ばした。少し力を入れただけで呆気なく倒れた少女を見て思う。何故こんなにも弱いのか。一年前に見た彼女はもっとずっと雄雄しくなかっただろうか。
 
 鮮烈な存在感を放っていたように思っていた。なのに目の前にいる七海はなんてみすぼらしいのだろう。あの日の憧れが褪せてゆく。

「もういっそ君も食べてあげようか。ああ、それがいいね。隼人と仲良く僕の中に消えてさ。二人の分まで僕が強く生き抜いてやる」

 赤黒い爛れた勇人の指が七海の喉に絡まった。圧迫感に顔を歪める。

「ぐ……っ」

 固く瞑った目から涙の雫が落ちた。
 初めて会った日、あの時隼人は力の加減をしていたのだだと知った。
 それでも十分苦しかったのだけれど、勇人のこの容赦ない締め付けと比べれば違いは歴然としている。


 隼人、はやと――

 
 繰り返し名を叫んだ。声になって出なくても何度も。



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