騙されていたから? 真実を教えてくれなかったから? そうとも言えるけれど、他にも理由はある気がした。 涙を溜める七海から勇人は目を逸らした。彼女が泣こうが喚こうがどうでもいい。白狐が何をさせたくてここへ連れて来たのかもこの際問題ではない。大事なのは事実を知った七海がどう行動を起こすか、ただそれだけだ。 教えなければならない。己の望みを叶えるために。 勇人は自分のシャツに手を掛けた。 「な、ん……っ」 ボタンを全て外し、露出した肌の大部分が紫に痛々しく変色していた。所々どす黒くなっているところもある。絶句する七海に勇人は唇の両端を持ち上げて笑む。 「隼人の魂とケンカしたらこうなったんだ。ここと、ここは致命傷」 「や……」 思わず目を閉じた。あちこちを差す指もまた皮膚は抉れて肉が剥き出しなっている身体を直視出来なかった。 「い、痛くないの」 「痛いよ、死にそうなくらい」 だったら何故、まるで痛覚など存在していないように平然と喋っていられる。 七海はがたがたと震える身体を押さえ込もうと両手で自身を抱えた。堪えきれなかった涙が幾つも流れ落ちた。 「痛いのなんか我慢すればいいだけ。これにさえ耐えたら僕の願いは叶う」 真っ直ぐ見据えているはずの瞳の焦点が七海と合う事はない。違う次元にいるみたいだ。勇人は勇人だけの世界に閉じこもっている。 「願いってなに。そんなになってまで……隼人を巻き込んでまで一体何がしたいの!?」 最早七海に怯えはないのに、止め処なく落ちる涙は尽きない。どんな感情に左右されているのかさえ自分でも分からなかった。 痛みの感覚が麻痺してしまっている勇人は何も考えずに七海に触れた。どちらでも良かった。隼人や白狐のように何も起こらないかもしれないし、拒絶され更に手に火傷を負うかもしれない。 考える気にはならない。彼にとってはさして重要ではないからだ。怪我など些細なものだ。そんな事よりもやっと本題に入れる。 喜んで全てを話そう。 end '11.2.2~'11.3.26 ←|→ back |