勇人ではなく七海の肩を掴んで揺さぶってみるも、目を開ける気配はない。

「おかしいわね、普段ここまでして起きない事なんてないのに」

 しかも二人共。これは自然に眠っているのではない。故意的に意識を切断しているか、無理やり眠らされているかのどちらかだ。

「朝陽、昌也呼んできて」

 このときばかりは素直に頷いて、朝陽は隣の部屋にいる昌也を呼びに行った。今日の仕事は午後からでまだ暫くは家にいる。

 すぐに来た昌也は部屋の惨状に眉を寄せた。

「夜中煩かったのはこれか……」
「ちょっと。勇人くんが起きたとき気付いたでしょ? どうして様子見に来なかったの!」

 全くもって美弥子の言う通りだ。だが興味が持てないものには指一本動かさない主義の昌也だから、安眠妨害された事に苛立ちを感じはしても、原因究明しようともまして対処しようなど考え付くはずもなく。

「めんどい」の一言で終了。

「それだったら朝起きてきたときに私に言うとか。朝陽もよ!」
「え、私? 私全然気付かなかったもん」

 朝陽の眠りは底なし沼だ。どこまでも深く嵌まり込む。決して満足いく睡眠時間が得られるまで目を開く事はない。

 寝ている間に大きな地震があった翌日に「ああジェットコースターに乗ってる夢見たと思ったわ」とニュースの放送で事実を知って呑気に笑った過去を持つ。

 美弥子とて離れた部屋で寝ていたとはいえ気付かなかったわけではないだろう。お互い様と言ったところか。子ども達に罪を押し付けた分、美弥子の方が罪状が重いかもしれない。

「この子達目を覚まさないんだけど、昌也分かる?」
「分からん」
「何即答してるのよ、それでも医師の卵? 悩むフリくらい出来ないの」
「フリで構わんのか」

 それならおやすい御用だ。七海達の前で屈み顔を覗き込む素振りを見せて一拍の間を置いて頷く。

「偏頭痛」
「どこをどう見たの」
「この辺」

 勇人の腹に触ろうと手を伸ばしかけ
 
「触らないで!」
 
 慌てて止めに入った榊を胡乱気に見上げた。
 七海の兄弟なら大丈夫かとも思ったが、もし自分と同じように手を焼かれるような事になっては大変だ。



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