「残念、不正解だ」
「え?」
「人間とは情を持ちながら、ほんに利己的なものよな」

 困った、と言いつつも白狐はどこか楽しそうだ。解け掛けた矢先に問題はその難しさを増した。

「もーっ! わけわっかんない」

 投げ出してしまいたくなる。成り行きに任せた方が早い気がしてならない。七海のおぼつかない頭で考えたところで埒が明かない。

「本人に聞くのが早かろうて」
「それが出来たら苦労しません」

 勇人は依然黙して語らず。
 話題に上げる事さえ憚られるほどだ。放っておいても良いものならば七海だって悩まない。けれどこうも次々に巻き込まれ続ければ謎を謎のまま放置しておけない。
 探偵でもあるまいに自力で閃いて新事実へ辿り着けるわけもなく、頭がこんがらがってどうしようもない。
 白狐は静かに笑んだ。
 
「人の子、お前の稀なる力はきっとあの子等の助けになる。救ってやってくれまいか」

 勇人に捕らえられた狐の魂を。方法など知らないが静かに頷くと男はやんわりと七海の頭を撫でた。
 白狐は七海の手を取ると小さな玉を乗せた。

「役立てるといい」

 彼を表すような白い玉だ。

「模造物ではあるけれど、大層ご利益はあるからね。ではハヤトが世話になる」
「ハヤト?」
「愚息の名だ、人間がつけたものだがな」

 勇人が飲み込んだ狐の名。白狐の息子の名。聞き覚えのあるものだったけれど、どこできいたものか思い出せない。
 
 ぱしぱしと軽快な音を立てて、白狐が二匹の狐を叩き起こした。跳ね起きた二匹は眠気を飛ばすように頭を振る。
 見慣れれば可愛いなと、手を伸ばす。触れる直前、狐に牙を剥かれて動きを止めた。七海はそれを拒絶だと思ったからだ。しかし手を引いても狐を唸るのをやめず、七海の肩越しに後方を見据えていた。

 自然とそちらに目をやった瞬間、外れるのではないかと心配になる勢いで開かれたドアから勇人が滑り込んできた。

「七海!」

 血相を変えた勇人が駆け寄ってくる。白狐と勇人が鉢合わせするのは拙いのでは。この間は一触即発の寸前だった。どうしようと振り返ると、白狐は不遜な態度でふんぞり返っていた。

「何をやっている」 

 聞き覚えのあるその低音。七海は思わず首を竦めた。

「どうしてお前がここにいる、何をしに来た、七海をどうする気だ」

 矢継ぎ早に飛ばされた詰問に、白狐はただ静かに見詰めることで返した。

「折角張った結界を壊したのかい、やれやれ無茶をする。邪魔をされる前にお暇するつもりでいたが、間に合わなかったね」

 勇人が苛立たしげに七海の肩を掴んで自分の後ろにおいやった。狐との間に勇人が入ってきた途端、急に体から力が抜けた。以前ほどではないにしろ、やはり中てられていたらしい。じわじわと身体から吹き出す汗を乱暴に拭った。



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