「テスト中にグダグダ考えてたあんたも変だと思うけどねー」

 学校帰りに入ったファーストフード店で昼食を食べながら七海が話せば、テーブルに肩肘を付いた格好で冷たくなったポテトを咀嚼しながら友達はそう返した。

「私からしたら七海は藤岡家の集大成って感じするよ?」
「どこが!」
「自分の事を普通だと言い張るところとか」
 
 ずぞーっとシェーキを飲み干すと、友達はにんまりと笑った。

「確かに七海の家族は常人離れしてる。けどそれを当然のように受け入れてるあんたの方が私は恐ろしいね」

 友人の失礼極まりない発言に顔を顰めるも反論はしなかった。
 確かに七海は変わり者ばかりの血縁者がやらかす珍事件を楽しんでいるのだから。

「でもまあそうね、一見普通の子っぽいよね七海は」

 付き合ってみれば、やはりどこか変わった子だという印象にいつの間にか摩り替わっているが、知り合った当初はそうでもなかったように思う。

「隠す能力? 普通の皮を被れるっていうか装う才能っていうか」
「なんじゃそりゃ」

 胡乱気に見やれば友人は「上手く言えん」と曖昧に笑った。「常識人って言ってもらいたいね。ていうか…天は二物を与えずって言うけど、それなら唯一の才能が何になるのかくらい自分で選ばせてもらいたかったよ」
「ま、そりゃそうだ」

 適当な相槌に溜め息を吐き出す。

 使えない才能ならば無くていい。だから七海は現在無いものとして振舞っている。

 空っぽになったトレイを持って立ち上がる。

「埃ついてる」
「あ、ごめん」

 七海は友人の肩を二、三度軽く叩いた。ふわりと舞った埃はそのまま宙を漂い消えていく。
 埃だなんて言い方をしてはいけないかもしれない。けれど七海それの名を口にしない。

 妖怪、若しくは幽霊だなどと不用意に言ってしまえば、それが後でどれだけ自分に影響を与える事になるのか何となくでも解るから。

 誰に教わったでもない。子どもが生活の中で自然と言葉を覚えてゆくように、当然の事として他者に言うべきではないのだと七海は考えている。
 
 
 妖怪などという輩は、自分達が通常、人間の視覚に映らないのだときちんと認識している。
 しかし、ごく稀に人間の中にも視えてしまう奴がいるとも。
 だから妖怪に七海が視えるのだと気付かれた所で滅多に困りはしない。
 だが人間は違う。十中八九の人はその存在を否定し、ただの空想の産物だという意見が世間一般的だ。ここではっきりと在るのだと明言してしまうのは即ち、自らを異質であると露呈する事。
 
 七海が嫌がる悪目立ちに繋がる。
 
 言えない。言うわけがない。人の前では視えないものとして過ごす。
 そんな使い道の無い能力は、初めから持っていないのと同じ。
 だから妖怪や幽霊を視る瞳を除外して考えた結果、七海は『普通』なのだ。

 家族ばかりは隠し遂せるものではないから承知しているが、それ以外の人達には話した事は一度もない。

「そーだ、やっぱあんた普通じゃないって」
「ん?」

 まだその話題を引き摺るのか。そんな思いを隠しきれない、どこか面倒くさそうな表情になってしまった。友人は気にせず続きを言う。


「厄介事に巻き込まれ体質」

 
 


end

'10.4.19



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