そして彼をして「人間としておかしい」と言わしめるのが、真ん中の姉の朝陽。
 
 褒めようとすれば天真爛漫、貶せば傍若無人。いつだって本心をオブラートに包むことなく、あっさりと口にしてしまう彼女自身にはいたって悪気は無いのだが、大層な毒舌家である朝陽の言葉は時に刃となる。
 
 けれど非難したところで彼女は「だって本当のことじゃない」と歯牙にもかけない。
 
 そしてそんな朝陽がこれまでこの性格を貫き通せてきたのは、自他共に認める優れた容姿のお陰である部分が大きい。
 
 街を歩けば男女問わず振り返る美貌は奇跡にも近い芸術的代物なのだと、他ならぬ本人が言っていた。
 
 自分で言うなよと鼻で笑えても否定出来ないのが悔しいところだ。
 
 綺麗なものには棘があるという言葉通り、朝陽は誰もが魅了される美貌の裏に針鼠も驚くほどの棘を持っていて、うっかり外見に騙されて近寄れば串刺しにされてしまう。
 
 それでも彼女の周りをうろつく男達を見る度に、ああこの人達は朝陽が
「お金が無いなら男に貢がせればいいじゃない」
なんて平然と言ってのける人間だって知らないんだろうなぁ、と憐れむのが七海の常。

父親の明良はと言えば一見してみれば大人しく大らかな人で、事実その通りなのだけれど。それだけであるはずもなく。
 
 普段優しい人ほど怒ると怖い。例に漏れず明良も一度キレると手がつけられなくなる。流石に女子供に手を上げる事は自制しているが、その分物への当たり方が半端ではなく、家の一室を使用不可能なまでにぼろぼろにしてしまった過去があるくらいだ。
 
 当時まだ幼少であった七海はその暴れっぷりに腰を抜かして床にへたり込み泣きじゃくった。その後ちょっとしたトラウマとなりかけ数日間は明良に近づく事さえ出来なかった。
 
 最初こそ家を壊した父に文句を言い連ねていたが、数日経って頭が冷えた頃に「一家の黒柱を担ってるだけあるわ、頼りになるったらありゃしない」と他人事のような感想を呟いた美弥子とは良いコンビだ。
 
 そんな藤岡家の中にあって、特筆すべき点が無いのは七海だけだ。逆に彼女が異質であると捉えられかねないほどに突き抜けた個性を持ち合わせてはいない。
 
 
 普通を絵に描いたような七海の平坦な日常。もし日記でもつけようとするならば、毎日同じような内容になってしまうだろう。変わるのはきっと天気くらいだ。
 
 他の家族のように突き抜けた何かが欲しいかと訊かれたら答えは否。「普通が一番なのよ」としみじみ言えば「お前はおばあちゃんか」とツッコミを入れられたけれど。
 
 高校二年生という多感で好奇心旺盛な年頃にも拘わらず、何事も波風立てず平穏に暮らすを好しとしている。
 
 気に入っているのだ。「もうこの人達って本当変なんだから」とちょっと外から目線で家族に言える立ち位置が。




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