「顔が良くてお金持ちなんて言う事なしね! これなら性格が多少歪んでても文句言わない。で、何歳?」
「えっと、十八だっけ」

 自分よりも一つ年上だったはず。記憶を掘り返す。勇人が答えられれば早いのだが、如何せんまだ朝陽の存在感に圧倒され中で。

「年下かよっ!」
「見るからそうだし」

 大学生と高校生。未成年と成人。そこにある差は埋めようがない。
 何を期待してか勝手に盛り上がり、また勝手に落胆する朝陽に呆れるしかない。

「あらでも目の保養としては十分でしょ?」

 うっとりとした響きを持たせた声は、七海達の背後から飛ばされてきた。デッキとリビングとの境に立つ母がいた。

「そうね、顔が良いってそれだけで財産だものね。私もこの美貌でどれだけ得してきたか分からないわ」

 結局のところ誰を褒めたのか。
 だがサングラスを外した朝陽は、自画自賛しても文句のつけようのない美しさを放っていた。くっきりとした二重瞼の下にある瞳は意志の強さを示す輝きが強い。
 性格のきつさの表れとも取れるが、確固とした自己を確立している証拠だと七海は思う。プライドの高さと自身へ向ける信頼は一級品だ。

「それよりもよ。いつまで私を直射日光に曝す気? 早く家の中入りたいんだけど。日焼けしちゃう」

 サンダルを脱ぎ捨てリビングからさっさと家へ入っていった。

「や、お姉ちゃんがずっと喋ってくるから入れなかったんだけど……」

 静かな七海の主張は朝陽には届かない。

「ほらね、覚悟しとけって言ったでしょ」

 夢から醒めたばかりのように呆然としている勇人の肩に手を置いて、七海も中に入った。




 
 朝陽とともに帰ってきた父は休む事なく出張へ出た。なんという強行軍。美弥子は新幹線の中で休むといいよとアイマスクを渡していたが、果たしてそういう問題だろうか。

 出勤ついでに駅まで明良を送るという昌也と買い出しに行くという美弥子が出て行ったあと、七海と勇人はソファで寛ぎ、朝陽は戸棚を漁っていた。奥底に美弥子が隠していた菓子の数々を発見して、躊躇う事なく袋を開封してゆくのを恐々と見ていた。

 後々、火種とならなければいいがと内心冷や汗ものだ。

「勇人くんって七海と同じガッコ?」

 勇人が家に居候する事になってから今日まであった出来事の説明を七海にさせ、口の中に食べ物を詰め込みながら朝陽が問う。二人は同時に首を振った。

「そうよね、んなわけないわよね。じゃあ何でおじさんは七海のこと知ってたんだろ。そんな目立つ子じゃないのに」

 多少言い方が気に食わなかったがその通りだ。嫌でも人の視線を一身に受ける朝陽とは違う。他校にまでその名と顔が知れ渡っているなどありえない。

 まして勇人自身ではなく父親など、接点の持ちようがないというのに。
 これは七海も最初から抱いていた疑問だ。答えを求め勇人を見た。視線を受け言い難そうに躊躇いながら言葉を捜した。



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