二世の契り | ナノ


ゆらりと昇る



どうして人は成長してしまうのだろう。
体が。社会的立場が。
まだまだ子供のような思考を持ったまま、ここまで成長する予定は正直無かった。
歳という括りに縛られてどんどん成長を余儀なくされる。
気付けば、私の心はまだ下忍に成り立ての甘ちゃんのまま置いてけぼりをくらっていた。
知識と教養と実践を詰め込まれているだけ。
中忍なんていう位をいただいて任務に就いてはいるが、実質中身はあのスカスカのスポンジと同じなのだ。
辛うじて救われているのは、少しお酒の楽しみを知ったことくらいだろうか。

「何で成長するんだろ」
「は?」
「へ?」

誰に問い掛けてもいないことへ素っ頓狂な返事が返ってくる。
目の前では煙草の煙がゆらりと空に昇っていた。

「あ、すいません」

任務中だということをすっかり忘れていた。
正直自分は忍に向いていないと思う。
気を抜けば今のように思考がふらりと何処かへ行ってしまうし、人と見ている部分がちょっと違うなと感じたこともままある。
それによって扱い難い奴だと思われていることにも気付いていた。
しかし、今私からぽろりと溢れた言葉に素っ頓狂な返事をしたこの人だけは、どうしてか私を卒なく使い熟していた。

「まぁた考え事か」
「いえ、」

また、と言われる程考え事を口にした記憶はないが。
という反論もどきを口にする前に、彼は「お前は顔に出すぎだ」と言った。
また一つ煙が雲になりたいのか空へと昇っていく。
こうして私の言葉の先を行く彼に毎度閉口するしかないのだが、そんな彼のことを、私はとても不思議な人だと思っていた。
私のような扱い難い奴を任務のチームから外さないことも不思議だったし、ましてや指名してチームに入れてしまうこともあった。
そんなもの好きがこの世にいるのかと思ったが、現に目の前にいるのだから仕方がない。
だからだろうか。
必然的に顔を合わせる頻度が高くなるにつれて、妙な安心感を覚えるようになっていた。
というよりも、ケーキの上の蝋燭のように上手くバランスを保って立っていられたのだ。
彼のチームにいる時は。

「すいません」
「別に謝ることじゃねーよ」

そう言って近くの岩で灰を落としていく。

「で?お前は何の成長を憂いてたんだ?」

そう問うたまま、彼はもう残り少ない煙草を一息に吸いきってしまった。
細く長く吐き出される紫煙を目で追いながら、「人……ですかね」と小さく呟けば、煙がもわっと質量を増す。

「なんだそりゃ」

と呆れにも似た声音に笑みがゆるりと混ざった。
まるで、紫煙が空気に溶けていくように。





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