monologue:8
今思えば、腑に落ちることが沢山あった。
家の前から去っていく後ろ姿。
病室から涙を拭って出てきたことや、親父の会話にあの人が増えたこと。
顔面蒼白のまま親父の名を呼ぶ姿に、歓喜の中で膝を折り泣き崩れていたこと。
酒に酔い潰れた親父を運んで来たのも、蜜柑が家から消えたのも。
今となっては、もう確かめる術は無い。
それでも、きっと。
きっと、あの人は親父のことが好きだったんだと思う。
そして、親父も。
長閑な午後の柔らかな日差しの下で、俺はそっと奈良シカクと冷たく刻印された墓石に親父の好きな煙草を吹かし手向けた。
シュッと音を立てるライターと、ふーっと吐いた真白の雲のような紫煙がそよいだ風に攫われていく。
墓石から立ち昇る、親父の好きな煙草の煙。
手にしていた蜜柑に視線を落とし、少し肌理の荒いオレンジ色の肌を撫でる。
来る途中、店先に積まれていたそれがまるで私も連れて行けと言うように俺を誘うから買ってきてしまった。
そんな蜜柑と煙草とを交互に見つめ、ゆらりと昇りゆく紫煙を追いかけた。
やがて一つ吐息を零す。
「親父、蜜柑好きだったもんな」
そうぽつりと呟いて。
鮮やかな色をした蜜柑を、そっと寄り添うように手向けた。
それは、きっと。
きっと、よく似合うと、そう思ったからだ。
穏やかな青空の下、ゆらりと漂う煙と艶やかな蜜柑の鮮やかさを、俺は一生忘れることは無いだろう。
忍界の新しい玉の芽吹きに期待しながら、そう思った。