二世の契り | ナノ


monologue:5



歓声が木ノ葉の里を包む。
死を目の当たりにした人々のナルトへの歓喜の声は測り知れない程大きく、そしてまた深かった。
皆口々にナルトへ賛辞の言葉を送り、人々は天を仰ぐ。

そんな中で俺が目にしたのは、ただ一人。
喜びの波の中にいて、一人だけ地に伏せるあの人の姿だった。

あの人は親父たちがペインの頭を捜索しに向かった後で、俺の元へと駆けてきた。
胸で浅く呼吸を繰り返しながらも、落ち着くのを待てないと言わんばかりに矢継ぎ早に尋ねられる。

シカクさんは、彼は無事ですか?!

その声が思考されたものかそうでないかは、直ぐに分かった。
元々色白なのか、それとも血の気が引いているのか。
顔面蒼白な表情で切り出された言葉に押されながらも無事だと告げれば、あの人はまるで我が身が助かった時のように、いや、それ以上の温かい声色で「良かった」と呟いたのだ。
その姿に、俺は何故か頭の隅で何かが引っかかったような気がした。
この表情には見覚えがある、と。
しかし状況が状況なため、そんなことを悠長に考えている場合ではなかった。
ペインの頭を探しに飛び出して行ったあの人の背がみるみる小さくなるのを、俺はこの戦況の先を読みながら見つめ続けていたのだ。

だからかもしれない。
あんなにも安堵の色を覗かせたあの人が、歓喜の中で蹲っていることに目がいったのは。
そして気付いたのだ。
あの人は泣き崩れているのだと。
動けない足を引きずってそっと近付いた俺の耳を貫く声に、それを確信したのである。
正確に言えば、声になっていない声だったが。
吐き出す息を噛み殺すように嗚咽する姿は、さっきとはまるで違う人物に見える。
里中が死者の生還というあり得ない現実を起こしてみせたナルトの勇姿に歓声を上げる中で、その姿はただ一人戦地に取り残され死者を目の当たりにしてしまっているかのようだった。

ごくり、と唾が乾いた喉を通っていく異物感に眉根を寄せる。
俺は、あの人に声を掛けることが出来なかった。
正直に言うならば、声を掛けられる雰囲気ではない。という言葉を盾に、逃げたのだ。
声を掛け、あの人が泣き腫らした瞳を向けてきた時どう反応したら良いのかが全く分からなかったから。
俺は、蹲るあの人を視界からそっと外しその場を後にした。

もしもこの場所に親父がいたのなら、あの人に何と声を掛けるのだろう。
そんなことを考えながら。





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