二世の契り | ナノ


monologue:4



最近、親父の会話にあの人が増えた。

雨雲が暫く続いた日に任務へと出向いていった後ぐらいからだろうか。
最初はお前に似てる奴がいる、と聞かされた。
たったそれだけなのに、何故かピンと来てしまった俺はあの人の名前を出していた。
たぶん入院した時に見てしまったあの人の泣き顔と親父の言葉が、そう直感させたのだろう。
「やっぱり知ってたか」とご機嫌に語る姿に、珍しいなと思った。
普段から戦術や戦略についてはあーだこーだと論じるが、一人の人間についてこんなにも語ることは無い。

次第に今日の任務は、とか。
忍としてどーとか、とか。
終いには、あいつは蜜柑が好きらしい。なんて個人的なことまで口に出す始末。

あまりにもご機嫌にその多大なる情報を語る姿に、俺は思わず「娘かよ」と呟いてしまっていた。
すると親父は目を丸くして、まるで考えもしなかったという顔をする。
そして一呼吸おいた後に、わっと大笑を吐き出していった。

「なんだー?ヤキモチか、シカマル。良い歳した男が情けねーぞ」

とニヤニヤしながら茶化してきたので、「そんなんじゃねーよ」とお決まりの躱しでその場を後にした。

だからその後、親父が一人ぽつりと「娘か」と呟いていたことを俺は知る由もない。





next