二世の契り | ナノ


monologue:3



親父が怪我をして帰って来たと聞いた時は、正直マジかよと思った。

悔しいが親父は忍として一流だ。
俺よりも、経験も知識も頭のキレも数段上をいく。
そんな親父に手傷を負わせる奴ってどんな手練れかと寒気がした。
自分にはまだまだ相手に出来ない、そんな敵なのだろうと悟る。
そんなことを考えながら、親父の病室へと足を進めていた。
母ちゃんから着替えを持っていくよう頼まれたからである。
親父が怪我をして木ノ葉病院に運ばれたと聞いた時、母ちゃんは慌てるどころか知らせてくれた忍に一つ「ありがとう」と人好きのする笑みを浮かべた。
その姿に、女はすげーなと思ったことは記憶に新しい。
普通なら動揺の一つでもするかと思うが、母ちゃんはいつもと変わらぬ様子で俺を親父への使いに出したのである。
何となく、それが忍の男を旦那に持つ女の姿かと一人ごちた。

だから目の前に現れたあの人に、俺はそれでも母ちゃんがこう感じているのではないかというのを表現されているような気がして、一瞬ドキリとした。


親父の病室から目を擦りながら出てくるあの人の姿。
充血した目と腫ぼったい瞼に泣いていたことは明白だった。
あの人は俺に気付くことなく反対方向へと歩いていく。

何があったんだ?

と思い、開けっ放しのままにされていた病室へと近付いた。
中にいるはずの親父に聞けば、何がの正体が分かる気がしたからだ。

夕日が見事にシーツを紅に染め上げる中で、親父はベッドに腰掛けたままどこか複雑な横顔を覗かせていた。

「ったく、世話のやける」

病室の入口で立ち尽くした俺には、親父が小さく呟いた言葉を拾うだけが精一杯だった。
聞き慣れているはずの言葉。
しかし、俺が今まで聞いてきたどの言葉とも違う。
あの人に向けられた言葉だからだろうか。
その表情や声音は、俺の知る親父のものではなかった。

そしてだいぶ後になって、あの言葉や表情が表していたものに気付いたのである。


あれは、困惑だ。





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