二世の契り | ナノ


簡単には教えてもらえないらしい



もやもやとしている。
結局答えが見つからぬまま、数日の時を過ごしていた。
とは言っても、四六時中頬の熱を思考しているわけにもいかず、割り当てられる任務に邁進せざるを得ないのが忍の悲しい性だ。
今日も相変わらずの任務に駆り出されるだろうことを思い、資料に目を走らせる。
隊長に奈良シカクの文字を捉え、思わず火影様の顔を窺い見てしまった。
受付所の頭上には『皆さんガンバ』と他人事のような垂幕が私を見下ろしている。

「お前、シカクに相当気に入られてるんだね」

頑張ってきな。と快活に火影様は私を送り出した。
窺い見た答えは得られなかったが、言葉からして、たぶんこの任務のリーダーであるシカクさんが以前のように私を召集した形なのだろう。
何度目かの驚きと彼の不思議さに、私は足を速め集合場所へと急いだ。


いつものよう。と言いはじめてしまいそうな程に、彼は「来たな」とお決まりの台詞を吐く。
その光景に見慣れが発生してきていることを、ここ最近知った。
つい先日奈良家へ足が向かったことを脇へ置いておけるほどには、彼が私を召集することに答えを求めている自分がいる。
替えが利く。
と言われるような忍をどうしてわざわざチームに加えるのか、と。
きっと、もしかしたら答えは至極簡単で、替えが利くからこそ使いやすいというだけかもしれない。
それとも、目の前にいる慧眼の士は私の何かを見抜いているのだろうか。
そんな大層な能力はないと思うが。
兎に角。この何でもないような問いに答えを得られれば、頬の熱に繋がるものが見えてくるような気がしたのだ。

晴天のもと任務を滞りなく遂行させた私たちは、休憩にと小川の流れる近くへと腰を下ろした。
スリーマンセル行動のため、一人ずつ見張りを交代しながら休憩に入っていく。
横から慣れ親しみはじめている煙草の香りが視界を過ぎった。

「一つお聞きしていいですか」
「あ?」

美味しそうに紫煙を燻らせる横顔に尋ねれば、彼はちらりとこちらへ視線を寄越す。

「何故、私をチームに入れるんですか?」

失礼な問いは重々承知だが、純粋な疑問だった。
私に何か特質した力なり技術があれば話は別だが、階級は中忍。能力平凡。という下手したらそこら辺にある石ころの群れに紛れる小石のような存在だ。
そんな人間を、何故わざわざ幾度となくチームに入れるのか。
それが不思議でならなかったし、彼を不思議な人だと認識するきっかけでもあった。

ふーっと煙草の匂いがきつくなる。
彼は視線を流れ行く雲へと移し一呼吸を置いた。
倣うように空を見上げれば、綿菓子と形容されそうな雲が左から右へと流れて行く。
睫毛を揺らす風に一瞬目を閉じたその時、彼のゆるりとした声が鼓膜を揺らした。

「さぁな」

と。
そのどこかどうでも良さげな雰囲気と微かな笑みに、もう答えを得られないと悟る。
彼の性格の成せる技かどうかは定かではないが、こういった空気を醸し出した彼は相手に答えを与えることはない。
それは、幾度かチームを組んだ末に学んだことの一つだった。
答えをもらえないと悟った私は、また一つと立ち昇る煙を視界に伸びをして立ち上がる。

答えてもらえないのならば、仕方がない。

「交代してきます」
「おう」

彼は不思議な人だし、私をチームに入れる物好きだ。
何故かなんて理由を教えてはもらえなかったが、それならばそれで構わない。
きっと、私が知ってもどうしようもないことなのだ。

ただ一つ心残りなのは、頬に残る熱への手掛かりが無くなってしまったこと。

それだけは、彼の紫煙を背に少し残念に思ったのである。





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