闇を祓う者 1
「俺、ここに住むよ」
黒髪の少年は何かを決心をした顔で、目の前にいる鳶色の髪をしている者に言う。
「こっちの"世界"は危ないぞ。もしかしたら、死ぬかもしれない。分かってるよな? あんたはまだ"覚醒"してないんだ。本当に死ぬかもしれないんだぞ?」
鳶色の髪をした男性は、彼に鋭い眼差しを向け低い声で問う。少年は、一瞬だけ口を結ぶと視線を下に向けまた言う。
「……分かってる。でも、俺のせいで関係ない人が死んだり、怪我したりするのは嫌なんだ」
「……」
暫くの沈黙。数秒のはずなのに長く感じた。男性はふぅ、と息を吐く。
「あんたの決意は分かった。なら、もうここに住む住民だ。……はぁ。あんたの叔母さんに挨拶しに行かなきゃいけないな。たく、面倒になったな…」
男性は乱暴に頭を掻く。少年は顔を恐る恐る上げる。男性は、後ろに声をかけた。
「おい、菖蒲。この子の部屋用意してやれ」
「もう、してますよ」
「……あ? もうしてあるだと? いつの間に。まさか、こういう展開になる事予想してただろ?」
「はい、勿論。だって、彼が私達と"同じ"なんですもん」
後ろにいた菖蒲は、嬉しそうにステップを踏みながら男性の隣に立つ。
「嬉しそうに言うな。被害者が増えたって事だぞ」
「まあまあ。そんな眉間に皺を寄せないで下さいよ、雷夜さん」
雷夜と呼ばれた男性は、大きく溜め息をつく。
「あ。そうだ。苛々したからと言って戻ったらお酒を飲まないで下さいよ〜?」
「……ふざけるな。こんな事あって、飲まずにいられるか」
そう菖蒲に投げ捨てる。その言葉に苦笑する。目をぱちくりしている少年の前に菖蒲は寄る。
「あ、菖蒲さん……」
「焔くん、いらっしゃい。月夜想へ! そして、」
菖蒲は口許を弧に歪ませる。雷夜は無表情に焔を見た。
「そして、ようこそ。悪夢が渦巻く"闇の世界"へ」
闇を祓う者
俺は、迷わない。 決めたんだ。 例え自分が、その力を持つ異端者だとしても。
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