闇を祓う者 2
「……焔、いい加減に起きなっ! 昼になるよ!」
「……うぇ……」
バシバシと体を叩かれ、焔は逃げるように布団の中に入るがその行動が読まれていたようで、布団を取られた。目を擦り、起こしにきた者を見る。
「……叔母さん、おはよう」
「おはよう、じゃないよ。全く、相変わらずよく寝る子だねぇ」
焔の叔母は溜息を吐くと、布団を置き「ご飯もう少ししたら出来るから、早く着替えなよ」と言うと部屋を出ていった。欠伸を噛み殺し、着替え始める。
「そういえば……」
変な夢を見たような気がした。何か解らないモノに襲われ、誰か……確か、菖蒲やら風とか言う人物が助けてくれたという内容。我ながら、みっともない姿を見せたなと思う。だが、やたらと現実味があったような気がした。あの、生々しい感覚。
「いやいやいや! 夢だって夢! あんな夢、もう見たくないなぁ。現実だったらもっと嫌」
首をブンブンと振り、現実ではなく夢だと呟く。その時、叔母の「焔! 早くしないとなくなるよ!」と声が聞こえ、慌てて自分の部屋を出た。居間に入るとご飯の臭いが鼻孔を擽った。居間にはご飯をよそう叔母と新聞を読んでいる叔父がいた。叔父は焔が来たのに気付くと、新聞から焔へと顔を向けた。
「叔父さん、おはよう」
「あぁ。おはよう……いや、こんにちはだな、この時間なら」
「あ、焔。食べる前に顔を洗ってきな」
そう言われ焔は、顔を洗いに行く。戻ってくると、自分の茶碗にご飯がよそわれていた。
「じゃ、食べようかね」
「いっただきま―す!」
元気よく言うと、ご飯を食べ始める。焔に続いて叔父と叔母も「いただきます」と手を合わせると食べ始めた。少し経ち、叔父は箸を止めると焔を見つめた。
「そうだ、焔。昨日は大丈夫だったのか?」
「……ひほぉう?」
「そうそう。アンタ、倒れたんだって」
不思議そうな顔をする焔に、叔母さんは説明した。倒れていて、青年の人が家まで焔を運んできてくれた事。それを聞き、焔はまさかなと思う。
「ね、叔母さん。その、運んできてくれた人の名前って?」
「それが、聞いたんだけど。通りすがりの者ですよっていうだけでねぇ」
「……女の子っていた?」
「女の子? いなかったよ? ね、アンタ?」
「いなかったな。青年さんだけだった」
「そっか……」
どうやら、違ったようだ。夢は夢だった。焔はホッと胸を撫で下ろした。叔母さんは不思議そうな表情をした。
「何で、そんな事聞くんだい?」
「い、いやっ。え〜と、まだ、寝ぼけてるみたい。あははははっ」
叔母は怪しいと言いたそうな目を向けていたが、焔がまた食べ始めると自分も箸を進めた。
「ごちそうさま!」
焔はご飯を食べ終えると、自分が使った食器を片付ける。それが終わると、自分の部屋に戻っていく。今日は友達と遊ぶ日なのだ。
「さて、もう行くか」
身支度をすると、焔は写真立てを見つめる。そこに写るのは幼い時の自分と母と父と弟。自分以外はみんな、死んでしまった。悲しいが、今は叔父と叔母がいるし、友達がいるから寂しくはない。ただ、羨ましいとは思うが。
「んじゃ、行ってくる」
写真に写る母と父と弟にそう挨拶すると、部屋を出る。叔母と叔父にも挨拶すると、焔は約束してる場所へと足を進めた。
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