目覚めた黒の殺戮者 6
「収穫なし、か」
草むらに寝転がり、空を眺める。 収穫という物があるのなら、自分は男か女か疑われたりしている、という事。後、好かれてる――いや、狙われているのだろうか。そのため、何故か追いかけられていた。
「女って怖いっ……」
震えるように呟く彼の体も、少々震えていた。それは、寒さからだろうか、それとも、恐怖からだろうか。後者の方が、主な理由だろう。
「けど、本当、収穫何もなし。別に喧嘩、とかそんなのじゃないみたいだし。まぁ、痴話喧嘩は多少あるだろうけど。それが今回の事と関係してなさそうだし――困ったな。どうしたらいいものかな」
目を瞑り、思考を巡らせ始める。
(やっぱり、この森の中に捜しに行くべきか。でも、無造作に捜すと返ってこっちが迷子になるかもしれない。慎重に場所を限定して捜すしかないか。でも、どこに絞るか、だよね……オレ――いや、皆の報告を聞いてからの方がいいよね。もし、オレみたいに収穫がなかったら、どうしよう。その時は皆で考えればいいか。仲間、がいるんだし。そう、仲間が――) 「はれ、ひぃへるしゃん!」
聞き覚えのある声に、リゼルは思考を中断し、目を開ける。煎餅を、バリバリと頬張っているアックスの顔が視界を覆う。それに声にならない悲鳴を上げる。 煎餅を口にしたまま、アックスは話し出す。
「ほうしたのは? ほんなほほへ?」 「アックス……話すのなら、食べきってからにしてくれない? 何言ってるか、聞き取れないから。後――オレの顔の真上でそれを食べないでくれる? 欠片がさ、顔にくるんだ」 「……ほへん」
謝り、リゼルの隣に座ると、煎餅を食べる。咀嚼し、喉に嚥下。 手には、パンパンに膨れた紙袋があった。その中身は、煎餅やらどら焼きやら色々なお菓子が顔を覗かせていた。
「はぁー、うまいぜ。この煎餅!」 「あのさ。その煎餅は何?」 「何って、リゼル。煎餅は煎餅だぞ? あ、もしかして、何味か聞いてるの? 味はしょう油だぞ」
別に聞きたくない情報を言うアックス。 リゼルは、言葉が足りなかった、と反省した。
「醤油味か……うん、ごめん。オレが聞きたいのは、味の事じゃなくて、何でそれをたくさん持っているのかって事なんだけど――聞きたいのは」 「そうなの? うんとね、聞きこみしてたら、キレイな姉ちゃん達がくれた!」 「そっか、良かったね……」 「リゼルも食べる?」 「オレはいいかな。アックスが食べな」
やんわりと断ると、残念そうな表情をした後、新しい煎餅を食べる。 リゼルは起き上がり、視線を彼に向けると、目が合った。口一杯に頬張っている姿はまるで、小動物のようだ。 想像し、つい頬が緩んでしまう。そんな彼を不思議そうな眼差しで見つめる。
「美味しい?」 「うん! 次はどら焼き〜」
どら焼きの入った袋を開け、アックスは齧り付く。 リゼルはふと思った事を、彼に聞く。
「そうだ。それ貰った時、女の人達、何か言ってた?」 「んー?」
彼の質問に数秒悩んだが、答える。
「うんと……お菓子貰うのが嬉しすぎて、忘れちゃった」 「そ、そっか……」
アックスらしい。でも、彼女達の言った事は覚えておいてほしかった。何かあったら、大変だからだ。妙な脱力感に浸ってしまう。
「でも、これ食べて大きくなってねって言われたよ!」
一応、お菓子を貰った言葉は覚えていたようだ。 何となくホッとしてしまう。
「でもさぁ、これ、縦にじゃなくて横に伸びそうだよね……」 「お菓子ばっかだもんね」 「ま、いいや!」
どうでもよくなったらしく、三つ目のどら焼きを食べ始める。
「アックス。そんなに食べたら、夕飯が食べられなくなるよ?」 「大丈夫! 僕の胃袋はブラックホールだから! 今、たくさんお菓子を食べても、夕飯は食べれるのさ! すげぇだろ!」
自慢げに言われたが、特に興味がなかったので「はいはい、それはすごいね」と、適当にあしらった。それに余程不満だったのだろう。アックスは残り少ないどら焼きを見ると、いい策を思いついたようで、彼の方に体を向ける。
「ね、リゼル……」 「ん、な――んあっ!」
リゼルが口を開いた瞬間、アックスは手に持っていたどら焼きを彼の口に突っ込んだ。いきなりの行動にリゼルはなす術もなく、悲鳴を上げ、どら焼きを受け入れる。涙目になりつつ、噎せながらも入れられたどら焼きを咀嚼する。 飲み込むと、アックスを睨みつける。
「ちょ……ごほっ。あ、アック……げほっ!」 「ふんだ! 僕は悪くないもんね。今のは、リゼルが悪いんだからね!」
アックスは立ちあがり、咳き込むリゼルにあっかんべをすると、宿へ戻るため、歩き出した。少し経って、ようやくリゼルは気付く。
「アックス、待って!」
呼吸を整えつつ、口を乱暴に拭う。 そして、走ってアックスの後を追いかけた。
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