目覚めた黒の殺戮者 5
翌朝、それぞれ調査を始めた。 フォルテは、女性二人に声をかけた。一人はノンフレームの眼鏡をしていて、もう一人は緑色の髪をみつ編みしている。
「あの、この人の事でお伺いしたいのですが……」 「そんな、畏まらなくもいいのよ? 普通にしましょ」 「は、はぁ……」 「メグは、もう――えっと、それで……ヨツグさんのことですね」
緑髪の女性は、眼鏡をかけた女性――メグの脇腹を軽く肘で突く。メグは「はいはい」と、棒読みに近い声を発した。それに溜め息をつく。
「溜め息つく事はないんじゃないの、ルルー?」 「いい加減な返事するからでしょう? 大体、メグは――」
説教が始まる。フォルテは目を丸くし、その光景を見ていた。 ルルーがリゼルで、メグがアックスに重なる。よく、リゼルがアックスにこうしているのを思い出し、笑いが込み上げるがぐっと我慢した。今、ここで笑ったら、失礼で尚且つ、怪しい人だと思われてしまうに違いない、と思ったからである。 ただ静かに待っていると、メグがこちらに気付く。
「ほら、ルルー。彼女が困っているわ。いい加減、その小言止めてよね」
そう思うでしょ、とこちらに振られる。フォルテは、曖昧に笑う。
「だから、それはメグ、貴方が――て、ごめんなさい。私、すぐ、こうなっちゃうんです。本当に、ごめんなさい」 「い、いえ……大丈夫です」 「えっと、ヨツグさん、ですよね? それなら、ニーナさんに聞いた方がいいですよ。ヨツグさんとは仲が良いので、私達より彼の事は分かっていると思います」 「道なら、教えてあげるわ。ついて来て、と言いたいのだけど、私達、ちょっと用があるから案内できないの。特徴のある家だから、すぐ分かるわよ」
ルルーはそう言うと、フォルテに教えた。何となく分かった気がした。昨日、案内された時に、特徴がある家があった事を思い出す。想像と一緒になるかもしれない。聞くと、やっぱりと確信してしまう。あのような家を忘れるなんて、出来ない。それくらい衝撃があった。
「ありがとうございます。助かりました」 「どういたしまして!」 「……早く、いなくなった人達、戻って来てほしいです。次は私かな、て思うと、なかなか寝れなくて……」 「なるべく早く解決しますので」 「あ、でも。無理はしないで下さいね。貴方達が大怪我したら、大変ですし…」 「無理はしません。大丈夫ですよ」
ルルーと会話していると、メグも話の中に入ってきた。
「畑仕事とか、大変だしねー。人の手が足りないから、私まであっち行ったりこっち行ったり、忙しいのよー。畑なんて面倒」 「メグ! そういう事言わないの。戻ってきたら、休めるし、それまで我慢よ我慢」 「休めるって言っても、少しだけじゃない……でも、ま、私達の食糧だし、頑張るけど!」 「その意気よ、メグ」
気合を入れるメグに、嬉しそうなルルー。
「あ、そうそう。聞きたい事があるんだけど――」
フォルテは首を横に傾け「何でしょう?」と聞く。 メグは少し躊躇ったあと、フォルテに問う。
「あのね、ほら、一緒にいた黒髪の子ってさ、」
それにフォルテはどうしよう、と考える。この後続く言葉は、多分、名前とかそんなのだろう。いや、もしかしたら、危険な事になるかもしれない、と一人思考を巡らせていると――
「あの子って、男の子なの? 女の子なの?」 「へっ?」
考えている事と全く違った内容に、フォルテは素っ頓狂な声を上げてしまう。 しかし、メグは特に気にせず、言う。
「ずっと、気になってたのよ。どっちなのかな、て」 「メグ……」 「ルルーだって、気になるでしょ?」 「あの子は、男の子じゃないの? 確かに中性に見えるけど。さすがに失礼よ」 「実際はどうなの?」
再び、フォルテに問い掛ける。固まっていたフォルテだったが、すぐに返事を返す。
「彼は、男ですよ……」 「そうなんだー」 「本当に、ごめんなさい! その方に謝っといて下さい! メグが失礼しましたと!」 「言わない方がいいんじゃない? ショック受けるかも――」 「そ、そうかな……」 「うん。だから、心の中に閉まっておきましょ」 「ましょ、じゃない! 何、終わらせようとしてるのよ!」
また始まった二人に、フォルテはお礼を言うと、踵を返した。 振り返ると、まだルルーが何か言っていたが、メグはこちらに手を振っていた。 こちらも振り返し、前を向く。
「えーと、こういう人もいるのね……ここにいる人は怖かったりなかったりするわね。三人とも、大丈夫かしら? ラ―グはともかく――て、失礼? でも、いっか。リゼル、無事かな……アックスは、お菓子に釣られてなければいいけど」
三人の――特に、リゼルとアックスの心配をするフォルテ。これが早く終わったら、様子でも見に行こうかな、と思案した。
「それより。ジェミス姉はどこに行ったのかしら……ん?」
笑い声が聞こえ、そちらに視線を向けると、いた。犬と戯れている紫色の少女。 ジッと長い間見ていると、彼女は気付いたようで犬に「じゃあね」と手を振ると、こちらに走って来た。
「ジェミス姉、どこに行ったかと思ったわ」 「ご、ごめん」 「アタシも、一人で仕事しててごめんね」
姉妹して反省し、謝る。 このままだと、謝り続ける気がして、フォルテは、
「よし! 次は一緒に仕事しましょ!」
と言う。ジェミスは目を丸くしていたが、頷く。 二人は、ヨツグという人の家を目指し足を進めた。
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