忘却した白い過去 11




その夜。
フォルテはふと、自分の部屋でジェミスと話していた時の事を思い出していた。

『何で、ついてくなんて言ったのよ?』
『え……その……』
『危ないって分かってるでしょ?』
『そうだけど――』

モジモジする姉の言葉を待つ。

『一度は行ってみたかったんだもの』
『だからってぇ』

長い息を吐くフォルテに、ジェミスは身を乗り出す。
意外に近くなっているのに、フォルテは驚き、後ずさる。

『みんなと一緒に行く任務ってしてみたくて……そ、それにエリーゼ村は、分かりにくいし!』

そんな態度に、フォルテは怪しく笑う。

『……"みんな"ねぇ』

楽しそうにそう呟く彼女に、ジェミスは悟ったのか、頬を引きつらせ冷や汗をかく。

『目的は違うんじゃないの〜?』
『な、に、言ってるの! わ、私。明日の支度したの、もう一回確認しなきゃ!』

まくしたて、逃げるように部屋を出て行ったジェミスの姿に笑ってしまう。
真っ赤な顔して、目を泳がせている彼女。姉の考えなど、妹には分かる。
いや、妹でなくても分かってしまうだろう。鈍感でなければの話だが。

「行ってみたいなぁ、とは何回か聞いたことはあるけど……まさか、今回とは思わなかったわ」

まだ収まらない笑い声を必死に殺し、涙を拭う。

「うん、いいか。少しは――してもね。こなしたいって思うわよね」

纏めた荷物を床に置き、小声で独りものを言う。断片的な言葉が部屋に響く。

「しっかし、なぁんで、そうなるんだか。わっかんないなぁ」

頭の中にある疑問の理由を考えるが、探しても探しても思いつかないわけで。
ついには面倒になり、考える事を放棄した。分かった所で、意味はないのだから。

「はてさて、寝ましょう――」
「フォルテ、ちょっといい?」
「うひぃ――――!!」

自分以外の声に体をビクッと反応させ、悲鳴を上げる。
恐る恐る振り返ると、リゼルがドアの間から顔だけを出して、こちらを見ている。申し訳なさそうな笑みを浮かべていた。
心臓に手をあて、彼の元へと行くと、口を開いた。勿論、ボリュームは小さくして。

「り、リリリ、リゼル! 驚かせないでよ!」
「ご、ごめんよ。ノックしても反応なくて……でも、電気ついていたから――」
「こっちこそ、謝るわ。気付かなかった……あ、中どうぞ。寒いでしょ?」
「うん。じゃあ、失礼して――ラ―グもいるんだけど……」
「いいわよー。ほら、二人共、さっさと入る!」

カップを人数分取り出し、ガチャガチャと準備をし始める。
急きたてられて、リゼルは足を踏み入れ、続いてリゼルが言った通り、ラ―グが入る。
二人が座ると、フォルテがトレイを持って歩いてきた。トレイを置き、カップに飲み物を注ぐと、彼らに渡した。
自分のは手で持ち、近くのソファに腰を下ろす。

「どうしたの? こんな時間に」

時刻はもう少しで日付が変わろうとしていた。
リゼルはラ―グを見るが、彼は自分が来たわけを口にする。

「俺を見るな。貴様が、ついて来て、と言うから来たまでだ」
「あはは……」
「でも、一緒に来てくれる辺り、優しいわよね」

思いもよらぬ言葉に、ラ―グは飲んでいたものを吹き出しそうになったが、耐える。
ギロリ、と睨みつけるが、彼女はリゼルの方を向いていたため、気がつかなかった。

「ラ―グまで連れてきた意味あるの?」
「あ、その……こんな時間に女の子の部屋に一人で入るのって、ほら、その――」

恥ずかしそうに顔を伏せ、縮こまる。
つまり、女の子の部屋に男の自分がこんな遅い時間に入るのは抵抗がある、らしい。
彼女はふーん、と納得する。

「別に、気にしなくてもいいのに」
「気にするよ! だから、ラ―グ連れて行けばいいかな、と――」
「男二人でも、変わらないだろ……」

ラ―グの一言に、頭をさらに伏せた。

「もう、ラ―グはすぐにそう言うんだから。ほら、リゼル。用があるんでしょ?」
「……そ、だ。オルガさんに何か言われなかった?」
「うん?」

キョトンとするフォルテに、リゼルは「ほ、ほら!」と思い出させようと、頑張る。

「オルガさんの部屋を出る時――」

忘れていたらしく、両手をパチンと合わせる。

「大した事じゃないわよ? 頑張って、てみんなに言っといてくれ、とね」

少し間を空けた後、「アックスにも伝えなきゃ!」と自分に対し言うと、残りを飲み干す。
ラ―グのカップが空になっているのを視界に入る。飲み物を入れるか合図すると、すっとカップが差し出される。中身を注ぎ、彼の前に置いた。

「そっか……重要な件かと」
「だったら、リゼル達にも言うわよぉ。リゼルってば、心配性なんだから」
「は、ははは……そ、そうかな……」

眉間にしわを寄せるリゼルをいじるフォルテ。ラ―グはというと、カップに口をつけ、飲んでいた。リゼルが時計を確認すると、日付が変わっていた。

「もう、部屋に戻るね。遅くにごめんよ」
「そうだな。明日――いや、もう今日か。早いからな」
「うん。じゃ、おやすみー」

席を立ち、出て行く二人を見送ると、使ったカップを片づける。
それが終わると、部屋の電気を消しベッドに寝転がる。

「頑張るわよー」

瞼を閉じ、訪れる睡魔に身を任せた。





mokuji



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