忘却した白い過去 10



オルガの部屋のドアの前で五人は立ち止まる。
先頭にいたジェミスがドアをノックした。部屋から「どうぞ」と言う低い声。ドアを開ける。

「失礼します」

そう言ってから中に入った。四人は机の前に立つ。ジェミスは机の横に移動した。
目の前に座っているのは、オルガだ。四人に視線を向けると――

「四人共、久し振りだね」

唇を綻ばせて言う。

「俺は、この間会ったばかりだがな」
「僕、久し振り―!」

冷め気味なラ―グに反比例し、アックスはオルガに会えて嬉しいのか、はしゃいでいた。
リゼルに「こら、アックス。静かに!」と怒られ、アックスはしょぼくれる。

「おいおい、リゼル。怒らなくてもいいじゃないか。私もアックスに会えて嬉しいよ」
「本当!?」
「あぁ。マヌケッ面が久し振りに見れてなぁ」
「マヌケッ面?!」

固まるのを見て、オルガはいじわるが成功したような悪戯っぽい笑みをする。

「冗談だよ。元気な顔を見れて良かったよ。この前、倒れたって聞いたからね」

ここまで情報がきていたようで、アックスは顔を俯かせる。

「あまりそうなるなって。次、気をつければいいんだよ」

優しく諭すような声にアックスは顔を上げ、頷く。
返事に満足したようで、フォルテとリゼルに視線を向ける。

「リゼルにフォルテも久し振りだな」
「久し振りですね、オルガさん」
「お久し振りです、オルガさん」

気さくに手をヒラヒラさせるフォルテと、礼儀正しくしているリゼル。
オルガは困った顔を浮かべる。

「リゼル、そんな堅苦しくなるなって。普通でいいよ普通で……」
「オルガさんはここの偉い人ですから……少しはこう、威厳とか……」
「厳かな風には、なりたくないなぁ。どちらかというと、温厚にしたいな」

自分の顎を擦り、ニコニコ笑う。四人は呆れる。
確かにオルガは優しい人だ。その人の良さなどで信頼されている。

「そう呆れるな、四人共。ちゃんとやるときはやるからさ」
「……それで、今回の任務についてだが」

軽く溜め息をついたラーグは、オルガに本題に入るように促す。
オルガは笑顔だった顔を引き締めた。

「実はな、ある村に行ってもらいたい」
「ある村?」
「そう、ある村。名前はな――えーと」
「オルガさん、エリーゼ村です」

村の名前を思い出そうとしているオルガを見かねて、ジェミスは言う。
分かったようでポンっと手を叩く。

「そうそう! エリーゼ村だ。ジェミス、ありがとう」
「いえ……」
「――村では最近、人が消えるらしいんだ」
「人が、消える?」
「あぁ。主に男が消えるとか、そんなんだな」
「ラーグ行ったら、連れ去られるかもね」

ニヤリと笑うフォルテに、リゼルとアックスは何故か納得する。
二人に視線を持っていく。貴様ら二人も対称になるだろうが、と伝わってきそうな瞳。
苦笑する彼らから、逸らし言った本人を睨む。彼女は意地悪そうに笑ったままで、視線を前に戻した。

「で?」
「それで、だ。お前達にはその原因、調査及び行方不明者を救出してほしい。はい、それだけ」
「……どっかからの依頼なの?」
「おっ。よく分かったな! そうだ。エリーゼ村からそう依頼が来たんだ。ほら、これ」

オルガは机に置いてあった紙を持ち上げ、ピラピラと動かす。
近寄り髪を見ると、オルガが言った通りの内容が書かれていた。
下の方に、村長の名前が記載されていた。

「明日、出発してもらう。各自、ちゃんと支度しとけよー。長くなるかもしれないからな」
「分かってますよ、オルガさん」
「長期任務ってヤツだな!」

鼻息を荒くしているアックスに、オルガは溜め息をつく。

「アックス、鼻息荒くするのはいいが……変な事やってくるなよ? お前は、危ないからなぁ」
「危ないって! 大丈夫だよ!」
「んーまぁ、リゼルとかいるからいいか……」

投げやりな態度に、リゼルはこめかみをピクピクさせる。いつもの事だな、とラ―グは心の中で呟く。
彼の事などお構いなしに、オルガが紙を引き出しにしまおうとした時、フォルテが呼びかけ、手が止まる。

「どうした。フォルテ?」
「あの、オルガさん。その紙、貰っていい?」
「ん? いいけれど、何故?」
「何となーく。ほら、何かあった時、使えるかもしれないでしょ?」

人差し指を立て、そう告げる。自分でもよく分からないが、貰った方がいいと体が言っている。
オルガは承知したのか、フォルテに紙を渡す。貰う。受け取ると、丁寧に折りしまう。

「それでは、これで。失礼します」

部屋を出ようとドアへと向かうが、オルガは慌てて四人を呼び止めた。

「ま、待て! まだ話は終わってないぞ」

立ち止まり、四人は振り返る。

「まだ何かあるのか?」
「なんだ、その嫌そうな言い方は……。そんなに私と話すのが嫌か」
「べ、別に、そういうわけじゃないよ! ね、ラ―グ!」

ここで否定すると面倒だな、と考え、ラ―グは頷く。
ほら、とアックスは引きつらせた笑みをオルガに向ける。
しかし、彼はあまり気にしていないらしく、頬杖をしていた。
適当さに長く息を吐いた。

「ま、いいや。早く支度しなくちゃいけないしな。じゃあ手早く言いますかな」

オルガは両肘を机につけ、口元の前で両指を絡める。

「なんか嫌な予感がするわ…」

フォルテはボソリと、誰にも聞こえないように呟いた。
この予感は当たる事となる。

「今回はナビゲーターをつけようと思う」
「ふぅん。それだけ?」

フォルテは予想してたことと違ってたので、安堵した。オルガは、首を振る。

「まだ続きがある。で、今回のナビゲーターはジェミスだ」

ジェミスは、名前を呼ばれオルガと四人を交互に見ると頭を軽く下げた。

「ここからだな重要な話。今回の任務のナビゲーターであるジェミスを……」

フォルテは先程まで予想してた嫌な考えが、頭に浮上する。
そんなバカな、あり得ない。
いや、でも――

「ジェミスを同行させる事になった」

半笑いで伝えた。アックスとリゼルとラーグは驚き、フォルテは声を荒げる。

「オルガさん、笑って言わないでよ! 危ないでしょ! 第一――」
「分かってる。普通はナビゲーターを同行させず、ここで指示。つまり、ナビゲーションしてくれる。知ってるさ」
「知ってるんなら、何で決めるのよ! 連れて行けるわけないでしょ!」
「お、おいおい。私が決めたわけじゃない。どちらかと言うと、フォルテの意見だぞ」

今にも頭から食いつかれそうな勢いにタジタジになりながらも、オルガは言い返す。

「はぁ? じゃあ何よ。ジェミス姉が連れて行け、とでも言ったと? ……で、どうなの、ジェミス姉?」

フォルテはジェミスへと、視線を向けた。ジェミスは引きつったような笑みを浮かべ、視線を全く合わせない。
それを見て、ジェミスが頼んだと分かったフォルテは、盛大に溜め息を零す。

「あーやっぱり。嫌な予感、的中ってね」
「私もやめた方がいいと言ったのだが……どうしても行きたいとね。あの迫力には負けたよ」

オルガは背もたれに体重をかけ、疲れたような笑みを浮かべ、降参のポーズをとる。
リゼルは想像してしまう。

「ジェミスが……怖いですね」
「大人しそうに見えてやるな。そういうのは全てフォルテにいってるかと思ったぞ」

リゼルに同意するかのように、ラ―グは首を縦に振る。気に障ったのか。フォルテは睨みつける。

「そういうのって何よ、そういうのって!」

目を怒らしているフォルテの視線を無視したラ―グ。それにムッとする。

「つまり、今回の任務は五人でって事だよね?」
「そうだ」

アックスは、オルガに確認し、オルガは頷いた。

「はい、連絡終わり。以上だ。解散解散」

早口でささっとそう言うと、手を振る。"早く部屋出ろ"とサインを出され、アックス達は早々と部屋を出る。
ラ―グ、リゼル、最後にフォルテの順に出ようとした時「あぁ、フォルテ」と呼び止められた。
呼ばれたフォルテは振り返り、訝しそうな表情をした。リゼルも足を止めた。

「どうしたんですか? もしかして、まだ言い忘れ?」
「いや、ただ……みんなに頑張れよって言いたかっただけだ。スマン」
「頑張ってきますよん。ちゃちゃっと片付けてきますって。楽しみにしてて」

フォルテはウインクをすると、踵を返し部屋を出る。リゼルは不思議そうにオルガとフォルテを見た。オルガと合うが、笑顔を向けられるだけだった。

「リゼル〜? 置いてくわよー! ほら、早く!」
「えっ、あ、うん!」

彼の横を通り過ぎようとしたフォルテは、動かないリゼルの手を引っ張り、ドアを閉めた。
閉ざされた部屋の中、オルガはイスを回転させ、目を閉じる。
心の中で、彼らの無事を祈った。






mokuji



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