目覚めた黒の殺戮者 1
翌朝。 五人はアークフォルドを出発し、森の小道を歩いていた。
「今から行く所は、エリーゼ村だったよね、ジェミス?」
リゼルは確認するようにジェミスに尋ねた。ジェミスは「はい。そうです」と答える。そして、話し続ける。
「エリーゼ村は、イリス大陸にあります。端の方にあるので、あまり人は通りません」
地図を開き、呟いた。
「アークフォルドがあるリア島からエリーゼ村へ行くなら船で行く方法もありますが、三日以上はかかります。イリス大陸は大きいですから……」
地図に書いてあるエリーゼ村を指差す。かなり端の方で止まる。
「イリス大陸は他の大陸よりも大きいからね……」 「転移などを使った方が早いです。それか召喚をして連れて行ってもらうしか……召喚で行くのはあまり良くないですし……」 「へっ? 何で?」
アックスは理由が分からず、首を傾げる。フォルテは説明をする。
「確か、召喚は体力も魔力も使うし……最近はそんな事する人いないから。魔物とかよく思ってない人がいるのよ」 「ふぅん……」
アックスは理解したのかしてないのか、微妙な顔をしたまま相槌をうつ。本人は頑張って分かろうとしているようだ。
「それだけ、魔力やらが人から無くなってるんだな」 「あったとしても、大きな術は使えないよね……」 「必要な物があったり、色々とリスクがある、と本に書いてありました」 「でも、転移装置で近くまで来れてよかったよね!」 「アックスの言うとおりだね。エリーゼ村に行った事ある人がいて良かったよ。そうじゃなかったら、どうなる事やら……」
リゼルはそう言うと溜め息をつく。アックスは想像したのか「そ、そうだねぇ」と身震いをした。ここにつくのを考えるだけで、げんなりしてしまう。
「レオがエリーゼ村に行ったのよね? でも、装置に記憶させる……あれはすごかったけど」
転移装置にはエリーゼ村についての情報がなかったのだ。つまり、記録すら何もなかった。慌てている最中、レオとミウナが転移室に入ってきた。彼は村に行った事があり、ミウナもいたので、装置に記憶させるため、行動を始めた。 そこまでの経緯では、青褪める内容がない。しかし、ここからがフォルテがそうなった理由が分かる。 ミウナの特殊能力――エフェクト。彼女の武器であるケーブルを使ったからだ。それは刺したモノの記憶を視れたりする。無論、人の頭に刺せばその人の記憶も読み取れる。つまり、レオの頭部とシャンクスの頭部と記録されている端末に刺し、彼が覚えている記憶を装置に記憶させた。 レオ曰く刺された『痛み』はないらしい。だが、多少体が傾くような感覚はあるようだ。本人はやってる最中も終わった後も笑顔だった。顔が青白くなる事はなかった。
「ま、無事だったからいいわ……それはいいとして。ジェミス姉、エリーゼ村にはいつ着くの?」
フォルテは振り返り、問いかける。ジェミスは呆れながらも問われた事に答えた。
「もう少しよ。この道を抜ければ目的地、エリーゼ村に着くわ。余談になっちゃうけど、エリーゼ村の食べ物は山の幸が多いんです。森や山に囲まれてるから。近くに海もあるから魚も穫れるけれど」 「へぇ!」 「ここは街に行くのに大変でしょう? だから、商人がわざわざここへ売りに来るの。あるものはいいんだけど、売りに来た商品の中に欲しい物がなかった場合は、それを紙に書いて商人に渡すの。そうすれば、今度来たときには買えるってわけ」 「商品って高くならないの? ほら、何とかひ、とかでさ」 「流通費ね。それが、高くはならないんですって。流通で魔法が役に立っているみたいなの。こういうのに使われているの、魔法って。街にまで行かなくても、商人さんの家に届くの。この村ではそういうのあれば便利なのにね」
ジェミスはいきいきと楽しそうに知識を話す。アックスは難しそうな顔をしたままで、何回も頷く。フォルテは「ジェミス姉、張り切ってるぅ」と棒読みをし、呆れ眼で見る。
「だよね〜。何でしないんだろ?」 「私もそこまでは分からないです……でも、行くんですから、聞いてみるのもいいかもしれません!」
会話についていけないフォルテとリゼルは、苦笑いをした。ラーグは相変わらずの無表情で二人のやりとりを見ていた。
「アックス、本当に分かってるのかなぁ?」 「さぁ、どうかしらね?」 「聞いてても、右から左に抜けてるだろうな」 「アックスの事だからね」 「そうね。アックスだもの」 「だな」
言いたい放題の三人の話は、アックスの耳にははいらなかった。ジェミスと話していたが、視線に気付いたのかクルリと体ごと向けた。
「ん? 何? 僕に何かついてる?」 「う、ううん。何でもないよ」 「……? あっそ。んでね――」
焦っているリゼルに不思議そうな顔をするが、ジェミスの方に体を戻し、話し始める。和気藹藹としている雰囲気がアックスとジェミスを包む。遠足に行っているような感覚がしてしまう。
「普通に会話、出来てる……?」 「大丈夫。ズレてないわ」 「……はぁ」
失礼な発言をしている前を歩く二人に、何か言おうとした。だが、面倒になったのかラ―グは息を長く吐く。
「あっ!」
ジェミスは森の小道を抜けたのを確認すると、振り返り四人に微笑みを向けた。そして、右手を高く挙げて言う。
「皆さん! エリーゼ村に到着しました! 早速、中に入りましょう」
ジェミスの後に続き、アックス、リゼル、フォルテ、ラーグの順にエリーゼ村に入って行った。
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