神に愛されし者 2
彼女が抗うなら、私はどんなことでもしよう。
彼女が私を怨むなら、私はこの世界を歪ませましょう。
神に愛される者がいるなら私が生み出し、創ったこの神を。
全ては、愛しくて憎い彼女の為に――
「アッヂィ……どうしてこんな暑いんだ。なぁフォルテ、分かる?」
燦々と照り付く太陽の下を歩く四人の姿。紅い髪の少年は汗を拭きながら隣の少女に呟く。問い掛けられた少女、フォルテは汗で額にはりついた髪を無造作に掻き揚げる。
「あのね、アックス……さっきから言ってるけど! 夏真っ盛りだからに決まってるじゃない! 何回も言わせないで。こっちまで暑くなるわ」
今にも相手を頭から喰い殺さんばかりの勢いで答える。長い青髪、顔は整っており肌は白い。並大抵の男ならナンパしてもおかしくはない程の美人だ。
「……まあまあ、落ち着きなって。大声出すと喉渇くし、余計暑くなるよ」
怒り沸騰中のフォルテを黒髪の青年はたしなめる。キッと視線を前に向け忌々しく言う。
「だってリゼル、何回も同じ質問……数分に一回の間隔で問い掛けらたらやになるわよ?」
リゼルと呼ばれた青年は、少し想像し「確かに……」と苦笑いをするしかなかった。
「けど、ほんっとに暑いわね。まだつかないの?」
胸元を引っ張るが全く涼しくならない。手で仰いでも同じことだ。髪も服も汗ではりつき、汗は拭っても拭っても頬を伝う。こんな日は外に出ないで部屋で寛いでいた方がましだと思ってしまう。
「うんまだ、かな? もう少しだと思うよ」 「ちっ、こんなすごい暑い日によぉ……」 「……しょうがないだろ、仕事だからな」
ふて腐れた返事をするのを聞き、眉間に皺を寄せ冷ややかな目で見てくる金髪の青年。声を聞いた途端頬が引きつる。
「あ〜はいはい! ラーグ、アンタ居たの? 存在が薄いからいないかと思ったわ!」 「……馬鹿か、お前は。返事したということは俺がいるの分かっているということだ。後、頬が引きつり」
嫌がらせで言ったのにすんなりと躱されてしまい、二度目の大きな舌打ちをする。聞こえないフリをするラーグ。毎回ある二人の行為に、リゼルは呆れつつ微笑ましいと感じる。気がつくと、隣にいた赤髪の少年、アックスがぐったりと舌を出していた。
「まだ、つかねーの? このままじゃ汗かき過ぎ病で僕、倒れちゃうよ」 「汗かき過ぎ病……? 脱水症の間違いじゃ――」 「んなこといいじゃん! 脱水でも汗かきでも水がなくなるんだから一緒じゃん!」
喚いている姿を見ると、倒れる前に何かがおかしくなりそうだ、特に頭が。
「今なんか思っただろ? おかしくなるな〜て」 「ちがっ。そんな訳ないよ! ただ……」 「ただ?」
アックスはリゼルを見続ける。 暫くの沈黙。 そして……
「頭がおかしくなるな、と思っただけさ」 「…それ、おかしいの前に頭つけただけじゃん…」
なんとなく予想はしていたが、いざ聞くと何だか脱力してしまう。がっくりとうなだれているアックスを横目で見て、気を悪くするようなこと言ったかな?、と首をかしげる。
「ね、ラーグ。目的地って確か……教会よね?」 「あぁ、もう見えてきたな。あれだ」
指をさした方を見ると、建物が確認できる。
「もう数十年使われていないらしい。廃墟と書いてある」 「にしても、すっげぇよなぁ」
アックスは無意識に言葉がでる。ラーグは紙を取り出し、目で文字をおいながら言う。アックスは彼の腕を掴むと、グイグイと下へ引っ張った。 ラーグは意味を察し、彼に見える位置に紙を持っていく。 アックスはそこにある写真と交互に見た。 写真とは違い、灰色の煉瓦は所々崩れかけ、コケやら蔓が張りついており、屋根は半分近くが腐ったように崩れている。
「月日が経つのっておぞましいしわね」
フォルテは紙を豪快に奪い取り、写真に写っている教会と今現在のとを見比べ、感嘆した。
「それより、早く中に入ろうよ」
リゼルの言葉で四人は足を教会に向けた。遠くで眺めてたよりも腐っているのが良く分かる。
←mokuji→
|