神に愛されし者 3




 ギ……カタン………と音を立ててラーグは扉をゆっくり押し開く。四人は警戒しながら中に入ると埃とカビの臭いがして思わず顔をしかめる。ギシギシと軋む床を慎重な足どりで歩く。

「こんなに腐ってるのに原型を留めてるなんて…不気味ねぇ」

 ここからは二人行動をすることとなり、フォルテはリゼルとなった。非常事態があったら連絡する様にと渡されたトランシーバーを片手にフォルテは祭壇の前に立ち、目の前にある神を司った像と眺める。
 女神のような微笑みをしている像を数秒経って目線から外すと、木で作られた余り大きくも小さくもない机の上に置いてある十字架を見つめながら言う。

「神を生み出すのは人、神を見捨てるのも人……この教会、何か思いでもあるのしら?」
「どうだろう。そうかもしれないし、ただ、持ち堪えてるだけなのかもしれない。そのあたりも、調べなきゃね……」
「そうね……それより、あの二人は大丈夫かしら? 仲、悪くはないんだけどね。喧嘩して暴れてなければいいんだけど〜」
「いや、フォルテとラーグが一緒だったらそれより大変なことになる。この建物が壊れる。粉々になる………」
「リゼルちゃぁん、なぁに? それは一体どうゆう意味かしら―ん? 分かるようにアタシに説明してほしいな〜」

 目を細め口元を妖しく歪ませながら、問う。
 リゼルは身の危険を感じ取ったのか顔面蒼白になりながら、慌てて首を横に振って「別になんでもございません…すいませんでした、フォルテさん……」と弱弱しく返す。
 そんな行動を可笑しく思いながら古びて輝きをなくしてしまった十字架に触れた時、

「っ?」

 頭に何かがよぎる。一瞬の事だったので、それは分からなかった。けれど、見覚えがある気がした。
 幼い頃、記憶に残る、見たことがある、あの怖くて恐ろしい場所に一緒にいてくれた、自分しか分からなかったあの――

「白い…虎?!」

 無意識に唇から出た言葉。
 その時、頭の中に何かが痛みと共に流れ、駆け巡る。体は支えを失ったように床へと倒れる。近くにいたリゼルの声が名を呼ぶ聞こえたが、そこで意識が途切れた。













 教会の奥に続く廊下の突き当たりにあった扉を力付くで開けると、やはりカビのあの独特な臭いがした。
 湿めぼったい感じに嫌気が差し、顔をしかめたアックスとラーグ。

「げぇ―、おえ〜、相変わらずくせぇ」
「…まぁな。さて、やるぞ」

 いまだにしかめっ面しているアックスとは違い、直ぐに無表情になり部屋の隅々まで隈なく調べ始める。
 壁には何の異常もないことを確認し、床に目を向ける。床には本が散らばっておりそれを拾い、ページを捲った。

「よく、こんな臭い湿ってる感じなのにそんな顔できるよな〜。しかも触るなんて、僕には到底絶対無理だね、というかやりたくない」

 やる気なさそうに辺りを見回すアックス。調べ終わった本を閉じ、いつまでも立っていて何もしない少年を睨み付け呟く。


「……貴様、ベラベラ喋ってる暇があるなら、口ではなく足と目と手を動かしたらどうだ。……地面穴あけ男が」


(じめん、あな、あけ、おとこ……?)


 瞬間、アックスは固まった。
 そして、思う。
 今こいつから紡がれ、発された、あれが聞こえた…?
 空耳じゃないよな?



(地面穴、あけ男!?)


「…て…てめ―――――! 人が気にしてること、言うんじゃねぇ――――!」

 プツリと頭の糸が切れた感覚がしたが、気にしない。苦手な奴に一番気にしていることを言われた屈辱の方が何倍も腹が立つ。
 顔を真っ赤にさせ、怒り出す。





mokuji



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